magoo swim(マグースイム)のボーカリスト/ソングライターとして活動し、SMAPの人気曲「Fly」を作詞作曲したことでも知られる野戸久嗣さん。今回リリースしたのは、自ら脚本/監督を手掛けた映像作品とそのサウンドトラックということで驚いた方も多いことでしょう。その短編映像『シルクロードくノ一』は、「各国サイバー軍への傭兵部隊として編成された人工生命体のチーム"シルクロードくノ一"。世界の深層webでうごめくハッカー達の攻撃に立ち向かう彼女達を紹介」という内容。また、映像公開に伴いOST『SILKROAD KUNOICHI ORIGINAL SOUNDTRACK/NEURONIC ORCHASTRA』が配信されました。バラエティに富んだ魅力的な楽曲揃い。そして野戸さんの三人のお嬢さんがヴォーカルで参加されています。
今回は野戸さんに『シルクロードくノ一』制作秘話についてじっくりお伺いしました。(2021年10月)





---まずは、このような作品を作ろうと思われたきっかけについて教えて頂けますか?
以前からこういう映像作品を作りたいと考えていらしたのでしょうか。


野戸:昨年の夏、プールへ行くのに歩いていたらフッとテーマソングが思い浮かんで来ました。
それまでにスマホの顔変換アプリで自分の顔を女性にして遊んでいたら、恥ずかしいのに止まらなくなってしまいました。その延長で、1分ほどの映像を何本か作っていきました。
ストーリーは考えたというよりも、朧げだったものがだんだん鮮明になって見え始めて来たという感じです。それでドラマを描いていくには無理があると思い、ハッカー達のサイバー攻撃に反撃するメンバーのアタックのイメージを映像にして一つずつ曲を付けるアイデアが浮かびました。でもそれ以降もまさか完成するとは思っていませんでした。実現出来れば楽しいだろうなとフワッと思って準備だけ進めていた感じです。以前には夢にも思っていなかったです。

---制作にはどのぐらいかかりましたか?

野戸:映像とアルバム曲を随時Instagramに投稿していったんで、制作期間ははっきりと分かるんです。
「シルクロードくノ一のテーマ」のメロディーが思い浮かんだのが2020年の8月26日、そこから大枠が自然に見えてきて予告編映像を作ったりしながら断続的に曲制作をしていきました。
サイバーアタックに曲を付け始めたのは年が明けて2月から、マイペースでのんびりとと思っていましたが、7月から勢いがついて9月初旬に完成したので、約1年間ですね。

---公開後の反応はいかがですか。

野戸:面白がってくれる人が沢山います。部屋から一切出ないで娘3人に歌ってもらった以外は全て1人きりで制作したアルバムなので、昔でいう宅録ですが、密室感、箱庭感を指摘する声はありませんでした。今はメタバースといってネット上の仮想空間に半分浸かっている人も多いですから、プライベートなものを覗く感じも特別なものじゃ無いんですね。ゲームなんかは個人空間も共有仮想空間だったりしますし。

映像に関しては、スマホの自撮り写真を使ってそこまで広げるかってシンプルに呆れてくれるのも良い評価だと思っています。キャラクターの名前とサイバーバトルの名称以外は、ほぼ現実で見聞きするものでまとまっているんです。並行世界として楽しんでくれる人もいますし、サイバー戦争はとうにSFではないので、現実と仮定して味わってくれる人もいます。

---サウンドトラックがとても凝っていて、映像を観てから楽しむのはもちろん、普段何気なく聴いていても心地良くて飽きさせられません。女性のVoiceがミステリアスで印象的でした。

野戸:今回は最初に思い浮かんだテーマソング以外は作った映像ごとに曲を付けていきました。
作曲というより音を配置していく感覚です。音のコラージュに調性を持たせて曲にして聴かせる手法のものが大半なので、打ち込みも演奏も自分ではあまりしていないです。
1曲ずつ結構な勢いで作っていったんであまり覚えてなく、後からデータを見てここは自分で弾いてたんだ〜という感じです。なので出来上がった曲をよく聴いて、どの楽器は誰が演奏しているのかを想像して、映像のエンドロールでクレジットする楽しみもありました。

女性のボイスは様々ですが、その一部は人によってはよく聴く(使用する)声かもしれません。
何せメインキャラは人口生命体なので。

---世界中を飛び回るくノ一のように、インド音楽、宇宙空間、中国音楽、Bossaなど曲調が多彩で、自由に想像の翼を広げて異世界にトリップできるような楽しさがいいですよね。これが話題にならなくてどうする!と思わされる傑作!

野戸:ありがとうございます。初めに映画のサウンドトラックのようなアルバムにしたいと思っていたのですが、音楽自体は音質も含めてフィルムミュージックのイメージからずらしたかったんです。日本の昭和のヒーローアニメと米70年代のブラックスプロイテーションムービーのファンキーさを意識しました。そういうところは、今までとあまり志向は変わっていませんね。
サイバー戦士それぞれの曲は、各々プロフィールがあるので、出来るだけそのイメージに沿ったものとなりました。

---野戸さんがこういった作品を発表されたことへの驚きが最初はあったのですが、「ブレインチューブ・スタッフ」や「シルクロードくノ一のテーマ」などを聴いていると、野戸さんの今までの作品と全く関連がない、ということではないと感じます。

野戸:「ブレインチューブ・スタッフ」が一番自分の新機軸だったのですが、これが野戸っぽいといわれるのも分かります。
この曲の"みな美"というキャラはテキサスで育ったので、そんなイメージです。こんな予想だにしなかった曲が生まれるとは、自分は幸せ者だと思いました。

---個人的に好きなのは「Alifeビューティ」のレトロで美しいサウンド。私が懐かしさと魅力を感じている60年代サウンドのようで嬉しくなりました。

野戸:「Alifeビューティ」は人口生命体の神秘的な美しさを表現しましたが、それは一つの"点"として具体的にあって、クローン技術もありますが、機械やコンピュータ、データ集積等が有機体に繋がっていくとしたらその接点、変化の瞬間です。神秘ですよね。
仰る通りこの曲が流れる舞台の60年代に見合うようレトロフューチャーな雰囲気にしました。




---「サルベーション・バレー」は文句なしに好みで気持ちがアガりました!

野戸:これも登場人物に忠実な曲です。ダルというインド・ムンバイ出身のブラックゴスペルにハマった女子大生が若くして先のない大病に罹った後にシルクロードくノ一の司令塔になったという経緯があります。救済の谷に生物が集い祈りを捧げている祝祭場面です。ゴスペル賛美の"シャウト"というリズムですね。言語のない声を上げている風景です。

---「エスペラント・ディスコ」も懐かしさがあるとともにちょっとテクノっぽさもあり、奏花さんのクールなVocalが素敵でしたね。

野戸:この曲だけは最初からアルバムに70年代ディスコ風な物を1曲入れたいなと思って作った曲です。
『ソウル・ドラキュラ』みたいな思いっきりディスコクラシックなストリングスのフレーズをと鼻歌で歌ってボイスメモに残しておいたものを形にしました。
"エスペラント"とはヨーロッパのイメージですが、シルクロードくノ一はロシアからシベリア鉄道横断、日本を通り、東南アジア、アラビアと繋がるストーリーなので、”世界語”ってことですからその踊り版ということで。歌詞の内容のようにはいかない世の中ですが、12歳が凛々しく歌ってくれたので良しだと思っています。

---「セシルのサイバーブロック」、お洒落でストレートにカッコいいです。

野戸:この映像では曲をつける前からボサのリズムが聴こえていたので、素直にそうしました。セシルはフランス出身ですが、フレンチだとサイバー攻撃出来ない感じだったので、ハードバップへ流れ込みます。この曲が出来てからどんどん作業が進みました。

---「胸の宇宙の片隅で」は深光さんの歌声が澄んでますね。ストリングスも美しく沁みます。

野戸:この曲は場面緘黙症(ばめんかんもくしょう)がテーマになっています。歌っている深光もそう診断された時期がありました。”どうして言葉が出ないのか”と思い巡らせた時に、自分には”話す相手のことを思いやり過ぎているから”と浮かびました。(本来は様々な要因がある不安症の一つです。) そういう内容です。あなたの世界は広大な宇宙と繋がっているから、どうか地上のしがらみに囚われないで楽でいてください。ストリングスもそのように奏でています。

---最後の曲、「シルクロードくノ一のテーマ」。すごくいい曲。くノ一たちの哀しみというか。曲が耳に残り覚えやすいですよね。

野戸:これは一発で浮かんだそのままなんで、コードが4つしか出て来ない快心の曲です。往年の名作アニメ曲と同じように歌えるものにしたかったのですが、そのように出来た気がして喜んでいます。
今回の映像と音楽『シルクロードくノ一』では、登場人物もストーリーも曲も、頭をひねって考えた部分は一つもなく、全部が全部スラスラと出てきたもので、自分が創作した感覚のない不思議な体験でした。
細かなストーリーはWebの方で展開していまして、映像とアルバムとWebで一つの物になっています。
3つのメディアで楽しんでほしいと切に願っています。




---野戸さんの3人のお嬢さんがVocalで参加されていますね。三人三様の魅力のある歌声が素敵でした。
お嬢さんたちは参加に対してどのような反応でしたか?


野戸:前作でも上の2人はコーラスで参加しています。今回が初歌録音になるのは末女の玲希(たまき)です。長女の深光(みやび)は、幼少の頃、僕の作曲本(日本文芸社)のCDでも歌っていますし、現在はゴスペルのユースクワイアに参加していて、そのアルバムでもリードを取ったりしています。
3人共に「録るからね」と予告しておいてこちらの準備が出来たら捕まえ連行して、曲を覚えていただき録音です。
さすがに深光が歌った映像のエンディング曲だけは、事前に歌詞とデモ音源を渡しましたので、オケに合わせて歌い確認してくれていたようです。
今の所、歌ってと頼んだらまだ誰も断りません。3人で普段からテレビの前でMAMAMOO、ITZY、BTSと、K-popをハモったりしています。

---『シルクロードくノ一』さらなる展開や続編、ご予定などありますでしょうか。
また今後、映像音楽へのご参加などの展望はありますか?


野戸:『シルクロードくノ一』自体はキャラクター1人1人の話もあり、ここからのストーリー展開も半年前に見えていますし、今作で登場していないキャラも沢山います。なので現状の物はほんの一部なのですが、今回、スマホの自撮りでの映像作りも出来るところまでやってしまっているので、何かスマホでの新しい映像表現のアイデアが閃いたら作ります。それまではWebとインスタ投稿で進めて行きます。始めようとして始まったものでもないし、なぜか止まらないんです。
映像音楽への興味もありますので、依頼が来ればやるかと思います。

---野戸さんのお好きなSF映画があれば教えて頂けますか?

野戸:1966年から現在まで続いている『スタートレック』というSFテレビ(と映画)ドラマを何十年と観ています。色々な側面からこの作品の影響を受けていると思います。
SFだと今思い浮かんだんですが、『キャプテンスカーレット』のエンジェル編隊が良いですねぇ。シルクロードくノ一みたいで。今まで忘れていましたが、この影響もあるような気がしました。ないか。

---最近の野戸さんの他の活動についてはいかがですか。

野戸:コロナ禍でこれといった動きはしていません。曲提供は今年2月に、昨年メジャーデビューした”フィロソフィーのダンス”の奥津マリリさんソロ『ネイビーブルー』が配信と7インチレコードでリリースされました。作曲・編曲・演奏で参加しています。



そして継続してESP学園東京校で音楽アーティスト科シンガーソングライターコースの主任を仰せつかっております。

---野戸さんの当WEBマガジンへのご登場は、2018年『SOUL ADDRESS:WAH MEMORIES』インタビュー以来ですが、最近の野戸さんのCheer Up!ミュージックを伺いたいです。

野戸:最近の野戸のCheer Up!ミュージックは、ずばりアルバム『シルクロードくノ一』なんですが、それはそれとすると、Ahh! Folly Jetさんの『Duck Float』です。晩夏はこれでした。肩の力が抜けてスカッと爽やかにしてアヤしさもあるお気に入りの曲です。沢山のリズムが出て来て、季節が変わればまた違って聴こえるかもです。何回も聴いてみる音楽です。




---今後の展望や2022年のご予定などについて教えて頂けますか?

野戸:以前から作り始めていて、コロナで立ち止まり一旦考え直していたアルバムの制作を進めて行きます。1stに続く歌物です。今作『シルクロードくノ一』を出したことで、新たに健全な心境で作っていけそうです。

---どうもありがとうございました。次のアルバムも楽しみにしております。




『SILKROAD KUNOICHI ORIGINAL SOUNDTRACK/NEURONIC ORCHASTRA』野戸久嗣

1.シルクロードくノ一 オープニング
2.Alifeビューティ
3.サイレント・ストリーマー
4.鶴丸忍法帖
5.サイキック・ブルーム
6.ボトムレス・ラブタッチ
7.ロマンサー・ストーン
8.超ウラン孔雀
9.ワイアへのプロローグ ft.Vo 野戸玲希
10.ブレインチューブ・スタッフ
11.サルベーション・バレー
12.アステカサルビアの花
13.エスペラント・ディスコ ft.Vo 野戸奏花
14.インナー・ギャラクシー
15.セシルのサイバーブロック
16.秘技幻覚アルネ斬り
17.くノ一・バトルスローガン
18.胸の宇宙の片隅で ft.Vo 野戸深光
19.シルクロードくノ一のテーマ





【アルバム解説】
SMAP「Fly」の作者、野戸 久嗣(作詞名ゆかり美和)の4年振りの2ndソロアルバム。短編映像作品『シルクロードくノ一』のオリジナルサウンドトラックとなる本作は、ソウル・ファンク・ゴスペル・ジャズ・エレクトロと広範囲のジャンルを取り込んだフィルムミュージック。各曲、映像本編では聴けない部分も収録されている。サウンドエディット・コラージュの手法を取り入れ、時系列を取り払い、音の万華鏡世界を描き出したアルバム。

【シルクロードくノ一 作品情報】
各国サイバー軍への傭兵部隊として編成された人工生命体のチーム"シルクロードくノ一"。世界の深層webでうごめくハッカー達の攻撃に立ち向かう彼女達を紹介した短編映像。
監督自らが手持ちスマホで自撮り、アプリで性変換した顔を元に制作した映像で、直近過去までのサイバー世界を舞台に人口生命体くノ一の勇姿が今ここに描かれる。

シルクロードくノ一 WEB
https://silkroadkunoichi.themedia.jp/



◆野戸久嗣 プロフィール
バンドmagoo swim(マグースイム)のリーダー(ヴォーカル・作詞作曲)として音楽キャリアをスタート。SMAPのシングル曲「Fly」(詞・曲)に始まり、最近ではアイドルグループ ”フィロソフィーのダンス” 等に楽曲提供をしつつ、シンガーソングライターとして活動している。古き良きソウル・ミュージック、ファンクから現代のR&B、HipHopまで、ブラックミュージックのリズムをベースに、独自のメロディーと言葉の語感を追及し、華やかさだけではない、ポップスの影に光を当てる曲の仕上げ方が他にはない特徴・持ち味となっている。

野戸久嗣 UhVanNoiz 音源サイト
https://magooswimwithnuts.bandcamp.com/
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<Cheer Up!関連リンク>

『SOUL ADDRESS:WAH MEMORIES』インタビュー(2018年)
http://www.cheerup777.com/noto2018.html
野戸久嗣インタビュー(2017年)
http://www.cheerup777.com/noto2017.html
特集:あなたにとってのCheer Up!な音楽教えて下さい♪(2014年)
http://www.cheerup777.com/cheer/noto.html



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