マイルス・デイヴィスと交流のあったジャズ・ジャーナリスト小川隆夫さんが、quasimodeのリーダーを経て広く活躍する平戸祐介さんと手を組み、マイルス・ミュージックの遺伝子を受け継いだ精鋭プレイヤーたちと結成したスーパー・ジャム・バンド【Selim Slive Elementz】(セリム・スライヴ・エレメンツ、以下SSE)。2017年リリースの1stアルバム『Resurrection(復活)』から2年、待望の2ndアルバム『VOICE』をリリース。ますますパワーアップしたSSEのサウンドを堪能できる作品となりました。
今回は『VOICE』リリースを記念してメンバーインタビュー、メンバー紹介に加え、「私の好きなマイルス」と題して沢山のアーティストの皆様に好きなマイルスの曲やマイルスの魅力について教えて頂きました。盛りだくさんの楽しい特集を、どうぞお楽しみ下さい。(2019年8月)



♪小川隆夫インタビュー

---2017年08月の1stアルバム『Resurrection(復活)』からちょうど2年。待望のセカンドアルバム完成ですね。
今のお気持ち、そして、今回久しぶりにリリースが決まった経緯について教えて頂けますか?


小川:今回は、原盤権を自分で持ちたくて、レコード会社の交渉に始まり、録音からその後にCDができるまで、すべての作業を、レコード会社の協力を得ながら自分たちでやりました。
原盤権を持とうと思った理由は、アルバムを作る上で完全な自由がほしかたったかったから。1作目を作ったときも、音楽に関しては自由があったんですが、CDという「商品」を作るに際してはレコード会社の意向もありますから、そこは仕方がないとしても、もっと自分たちでやりたいことができないかと考え、今回は自分で原盤を作り、音源をレコード会社にライセンスする方式を取りました。

---アルバムジャケットは、インパクトがあってとても素敵ですね。どなたが描かれたのですか?前作はメンバーの写真を基調としていましたね。
ジャケットのイメージはデザイナーにどのように伝えたのですか?


小川:1作目は、レコード会社がそれまでリリースしてきた作品に沿ったイメージのジャケットになりました。今回はそうした制約がないので、100パーセントこちらの意向で制作しています。
平戸祐介さんにアーティストの2G INDAHOUSEさんを紹介してもらい、バンドのコンセプトと新作を聴いてもらいました。その上で、以下のようなイメージでアート・ワークを制作していただきました。

【2G INDAHOUSEさんからいただいたイメージ・コンセプト】
白黒はマイルス・デイヴィスが演奏している様を連想させるシルエット。
はっきりとは描かずに夢に出てくるような不思議な物体に描きました。

顔に当たる部分にかかっているカラフルな色の帯は、『ビッチズ・ブリュー』のアルバムに描かれてあるモヤのようなものからインスパイアされて、かつサイケデリックなものを目指しました。

『ビッチズ・ブリュー』のアルバム・ジャケットは写実的かつどこか非現実な夢の中にいるような世界観です。
それを自分だったらどう表現出来るかを考えてみました。


文字のレタリングは、ぼくのアイディアを伝えて、作っていただきました。60年代に流行ったサイケデリック・アートで使われていたタイプのレタリングです。
2G INDAHOUSEさんのモダンなアートに60年代をイメージする文字の組み合わせです。

---このアルバムは2019年4月10日渋谷「JZ Brat SOUND OF TOKYO」にてライヴ・レコーディングされたとのこと。
当日はどのようなご様子でしたか?


小川:昨年の11月に関西ツアーをした際、Selim Slive Elementzは「ライヴで最高に真価を発揮するバンド」と確信しました。
1作目がライヴ録音だったので、2作目はスタジオ録音でいこうと思っていたのですが、このときに今度もライヴでいこうと決めました。

Selim Slive Elementzの演奏はライヴの場でいかようにも変化します。そのときどきのメンバーの気持ちや会場の雰囲気などが反映されるのでしょう。
今回も、ぼくが事前に考えていた展開とは違った形になった曲がいろいろあります。いつものことですが、そういう演奏は、予測された内容を常に上回ります。この自在性がSelim Slive Elementzの魅力であり、武器だと考えています。今回のライヴでもその真価がとてもいい形で発揮されたと思っています。

---結成から今までを振り返ってみて、現在どのようなお気持ちですか?また、「バンドの進化」についてはいかがですか?

小川:ライヴをやるたびに前回を上回る手ごたえを感じています。実力のあるミュージシャンが思う存分その実力を発揮する場――それがSelim Slive Elementzだと思っています。そのためのお膳立てをして、メンバーが気持ちよく演奏できる場を提供するのがぼくの役目と考えています。
ライヴを重ねるたびにバンドの結束が固まり、いろいろな意味でベストのタイミングでレコーディングに臨めました。

---今回のアルバムの楽曲は、小川さんと平戸さんの共作がほとんど。
前回のインタビューで、平戸さんとの曲の制作方法について教えて頂きましたが、この2年でその手法に変化はありましたか?


小川:曲作りの基本は同じです。ぼくのイメージで平戸さんが曲のアウトラインを作り、それをブラッシュアップしていく形です。その際に、メンバーの意見もあれば尊重します。
ですから、実際は平戸さんが曲の概要を作り、バンドで仕上げていく形です。
とはいえ、演奏するたびに変わっていきますから、曲は生き物のようなものと思っています。

---今回のアルバムでは、小泉P克人さん、コスガツヨシさんが1曲ずつ作曲していらっしゃいます。小泉さんとコスガさんが曲を作っていらした時にどんな印象でしたか?
今後、ほかのメンバーにも作曲してほしいなあというお気持ちはありますか?


小川:小泉さんは、前回もそうでしたが、リハーサルのときに曲を持ってきて、みんなで何度か演奏して仕上げました。
コスガさんには、ぼくから依頼しました。彼は、奥ゆかしいというか、前に出ないタイプなので、もう少し目立ってほしいと思い、それなら曲を書いてもらうのがいちばんだと。
もちろん、ほかのメンバーにも曲を提供してもらいたいと思っています。少しずつメンバーの曲が増えていくのも、バンドをやっていく上での楽しみです。

---7月24日に「Remembering Isle of Wight」の、ラジオ用に作った別テイクのシングル・ヴァージョンが先行配信されました。
今回ラジオ向けにシングルをリリースした経緯について教えて頂けますか?


小川:1作目は「出して終わり」みたいな形だったので、今回はもっといろいろなことがしたいなと。それで、まずは前宣伝を兼ねて先行シングルを配信し、次にフル・アルバムの発売と配信、11月にはLPとシングル盤、その後にカセット・テープの発売を予定しています。
前回もLPとカセット・テープは発売しました。これらも、今回はもっと多くのひとに聴いていただければ、と思っています。

---アルバムタイトル『VOICE』について。マイルスは、父親からいつも「have your own voice」と言い聞かされて育ったことから、このアルバムタイトルを決めたそうですね。
思いついたのは小川さんですか?このアルバムタイトルに込めた想いをお聞かせ頂けますか?


小川:平戸さんのアイディアです。
1作目のタイトルが『Resurrection(復活)』で、これはマイルスがカムバックしたときに、「comeback」ではなく「resurrection」という言葉を使ったことからヒントを得てつけました。
今回も、マイルスの言葉でいいものがないかと思っていたときに、平戸さんが提案してくれました。

Selim Slive Elementzは8人のメンバーがそれぞれの「own voice」を持っています。しかしひとたび結集すればSelim Slive Elementzとしての「one voice」を追求します。8人はそれぞれがいろいろな世界を見ているけれど、Selim Slive Elementzでは共通したひとつの世界を見ている――そのことにもかけて『VOICE』としました。

---今後の展望や夢を教えて頂けますか?

小川:フェスティヴァルへの出演、海外進出、ゲストを迎えたり対バン形式でのライヴなどができればと考えています。
アルバムもヨーロッパなどでのリリースを考えていますし、カセット・テープは前回もそうでしたが、全米発売されます。

---どうもありがとうございました。Selim Slive Elementzのますますの躍進、とても楽しみです。




『VOICE』Selim Slive Elementz

1. Remembering Isle Of Wight
2. One Punch
3. 111
4. Angola
5. Clouds
6. Moon Strut
7. What You Say
8. Remembering Isle Of Wight (Single Version)

Live at JZ Brat SOUND OF TOKYO 2019

発売日:2019年08月07日
レーベル:OCTAVE/Flatout
規格品番:OTCD-6768

【メンバー】
平戸 祐介 (quasimode) Keyboards, Musical Director
元晴 Saxophone
栗原 健 (mountain mocha Kilimanjaro) Saxophone
小泉P克人 Electric Bass
コスガ ツヨシ (cro-magnon) Electric Guitar
大竹 重寿 (cro-magnon) Drums
西岡 ヒデロー (Conguero Tres Hoofers) Percussion
小川 隆夫 Electric Guitar, Producer







【Selim Slive Elemntzプロフィール】
2016年春、小川隆夫と平戸祐介で新バンド結成のミーティング。バンドのコンセプトと方向性、メンバーの候補などを話し合う。6月に初リハーサル。以後定期的なリハーサルを重ね、12月14日に「Motion Blue YOKOHAMA」で初ライヴ。その後、数度のライヴを経て、17年5月18日に「晴れたら空に豆まいて」で1作目の『Resurrection(復活)』(T5Jazz)をライヴ・レコーディング。発売に合わせ、9月1日に「東京Jazz 2017」のクラヴ・イヴェントで「www x」に出演。18年秋には関西ツアーを成功裏に終える。19年4月10日、2作目となる『VOICE』を「JZ Brat SOUND OF TOKYO」でライヴ録音。8月7日にウルトラ・ヴァイヴよりリリース。



◆小川 隆夫 (おがわ たかお) プロフィール
81〜83年のニューヨーク大学大学院留学後、整形外科医として働くかたわら、音楽(とくにジャズ)を中心にした評論、翻訳、インタヴュー、イヴェント・プロデュースを開始。。著書は『証言で綴る日本のジャズ』『マイルス・デイヴィスが語ったすべてのこと』『マイルス・デイヴィスの真実』(講談社+α文庫)など多数。
2016年にマイルス・ミュージックにオマージュしたバンド、Selim Slive Elementzを結成し、ギターを担当。2017年に『Resuurection(復活)』(T5Jazz)を発表し、翌年は「東京Jazz」のクラブ・イヴェントで大好評を博す。

Twitter
https://twitter.com/hn4togw

<Cheer Up!関連リンク>

特集:Selim Slive Elementz『Resurrection(復活)』(2017年)
http://www.cheerup777.com/selim1.html



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