トランぺッターの類家心平さんが2025年夏、キャリア初のソロプレイ集『メタモルフォーゼ』をリリースした。レーベルは「いまここにあるジャズ」をテーマに日本ジャズに特化したレーベルとして設立されたDays of Delightだ。本アルバムのレコーディングは同レーベルの設立者でプロデューサーの平野暁臣氏が館長を務める岡本太郎記念館で行われた。
今回は、類家さんにオンラインインタビューにて、本アルバムリリースに至った経緯やアルバムに込めた想いなどを詳しく伺った。しかし、その過程では筆者の逡巡もあった。このアルバムに収録された曲の数々は即興演奏(インプロビゼーション)だからだ。ジャズのアドリブとの違いについて自分の中で整理し切れない側面もある中でのインタビュー、類家さんは説明も交え真摯に答えて下さった。(2026年1月)

---今回、平野暁臣さんのレーベルDays of Delightからリリースとなった経緯について教えて頂けますか?

類家:平野さんは結構前からレーベルを運営されていて、色々とアーティストを探していたんですけど、ある日僕がソロのライブをやった時に平野さんが一番前で観ていてくれて。
これまでちゃんとお話する機会はなかったんですけれど、その時に「ソロの音源を出しませんか?」とオファーを頂きました。

---平野さんはどんな方ですか?

類家:平野さんは岡本太郎さんのパートナー(注:岡本敏子)さんの甥っ子さんなんですよ。つまり太郎さんのパートナーさんが平野さんの叔母さんという環境で育ったという方で、シュっとした感じのかっこいい方です。

---そういうご縁もあり通常は入ることの出来ない岡本太郎記念館のアトリエでレコーディングできたわけですね。

類家:そうですね。平野さんは青山にある岡本太郎記念館の館長で、岡本太郎さんの権利関係も会社(注:現代芸術アトリエ株式会社)を作ってやっている方です。
「明日の神話」という、太郎さんの描いたもの凄く大きい壁画があるんですが、それは元はずっとメキシコにあったものなんです。それを苦労して日本に持ってくるというプロジェクトがあって。太郎さんのパートナー・敏子さんとの約束で平野さんたちのプロジェクトがやり遂げて、「明日の神話」は今は渋谷駅にあります。
その経緯はDVDになっています。(注:『岡本太郎 「明日の神話」 再生への軌跡』)

あと、岡本太郎記念館とは別に岡本太郎美術館が川崎市にあり、太郎さんの作品はほとんどそっちにあって川崎市が管理してるんですけど、そこの空間デザインも平野さんが手掛けたんです。

---岡本太郎さんの作品はインパクトがあり素晴らしいものばかり。記念館も美術館もぜひ行ってみたいですね。
ちなみに類家さんが一番印象に残る岡本太郎作品は?


類家:印象的なのは、やはりその「明日の神話」。これは渋谷駅に飾られる前にいったんテレビ局に展示された時期があって。(注:2006年、日本テレビで一般公開)それを見に行ったりしてました。
あと、太郎さんの本を何冊か読んだりしていましたね。

青山の岡本太郎記念館はブルーノート東京からすごく近いんですよ。歩いて3分ぐらいかな。
そんなに多くないですけど僕もブルーノート東京に出る機会がありまして、その時はリハーサルが終わってから公演までの休憩時間が結構長いので、平野さんに出会う前から足を運んでいました。

---今回のアルバム『メタモルフォーゼ』、ジャケットはまさに岡本太郎さんの作品「メタモルフォーゼ」が使われているんですね。

類家:レコーディングにも平野さんが立ち会っていたのですが、出来上がったものを聴いた時にモノクロの版画「メタモルフォーゼ」がいいんじゃないか?と選んで下さって。
タイトルも僕と平野さん、お互いにいろいろ考えていたんですけど、この太郎さんの作品が「メタモルフォーゼ」という名前だったので、それがいいんじゃないかということになりました。

---このアルバムはインプロビゼーションのソロ作品。ジャズの演奏では途中からアドリブをとりますが、個人的にインプロビゼーション(即興演奏)というものはアドリブの先にある、とても難しい世界という印象を持っています。それで正直このインタビューも自分の知識不足があり不安でした。
海上自衛隊で吹奏楽をガッツリ演奏されてきた類家さんがここまでたどりつく過程にはどのような経緯があったのか…そのあたりがとても気になっています。


類家:ジャズの場合は、「テーマ」が終わったら、そのテーマと同じリズムとコード進行の上で作曲と演奏を同時にやるっていうことなんですよね。それはもちろん、閃きとか思いつきというのもあるんですけれど、そのコードに対してどういう風にアプローチするか?みたいなことにセオリー的なものがあったりもします。
とても大雑把にいうと、リズムに乗っかってしかもそのコードの中で使われている音を中心に使って、自分のフレージングで自分自身の歌を紡いでいくというのがジャズのアドリブです。

---類家さんは海上自衛隊をお辞めになって上京して、以前Cheer Up!のコラムにも書いて下さったように、クラブに通ってジャムセッションをされていた。そして2004年には6人組ジャズ系ジャムバンド「urb」のメンバーとしてメジャーデビュー。その過程で身につけてこられたということなんでしょうか。

類家:そうです。もちろんそれもありますし、自衛隊にいる時もみんなとの練習が終わった後は一人でジャズの練習をしていました。
今は携帯アプリで、ジャズ・スタンダード曲の伴奏をしてくれる便利なものがあるんですけど、昔はマイナスワン(注:練習する楽器の部分だけ除いてある音源)のCDを何枚か買ってきて、夜な夜な練習してました。

---そんな前から日々研鑽を積まれて、今回のアルバムのようなインプロビゼーションにたどりつく…という考え方で良いのかどうか。

類家:どちらも即興なので、インプロビゼーションではあると思うんですけど、やっぱりコードとリズムがあるものと、ないものがあって、ないものはあまりジャズにカテゴライズされなかったりもするんです。フリーインプロビゼーションというか。
海外だとクラシック畑の人も結構即興演奏をやっています。
ジャズは、ジャズのボキャブラリー、言い回し、ジャズの節があって、それはビバップといって1940年代にチャーリー・パーカーやディジー・ガレスピーなどから始まったスタイルに端を発しているんです。
で、そことはまたちょっと違う、ジャズの語彙を使わない即興演奏というものも存在していて。
それをジャズだと見る人もいれば、本当のジャズではなくてインプロビゼーションだっていう風な考え方をする人もいたりしますね。
だから、そこは結構曖昧な部分ではあるんですけどね。

---今回のアルバム『メタモルフォーゼ』ですが、トランペットの吹き方が色々変わっていきますよね。それは、岡本太郎さんのアトリエで類家さんの頭の中で閃いたものを一つずつ演奏していったということでしょうか。

類家:そうですね。ちょっと昔に自分が作曲した曲を吹いている場面もありますね。

---サンプラーを流して吹いている場面もありましたね。

類家:あれはサンプラーにいろんな曲の断片で組み合わせがしやすいようなものを入れておいて。で、その場で「これとこれを組み合わせたら面白いかな?」みたいな感じで何個か組み合わせて使うことが多いです。

---今回のアルバムは、聴けば聴くほど類家さんの多様な吹き方やトランペットの表情に惹きこまれて。その時によって心に残る曲が変わってくる、そんな風に自分のそのときの気持ちに寄り添ってくれるアルバムだと感じました。

類家:ありがとうございます。自分でも聴くたびに印象が変わるっていうのはあります。

---これまでに類家さんには、RS5pbとして、あるいは中嶋錠二さんとのDuoなどアルバムがリリースされるたびに当WEBマガジンにご登場いただき、さまざまなことを聞かせていただきました。
こういうインプロビゼーションのソロアルバムを出したいという気持ちは昔からおありでしたか?


類家:そうですね、出したいなというのはありましたね。欧米ではこういうインプロビゼーションだけでソロアルバムを出してる人が結構いるんです。自分もやってみようかな?というのもあって、ソロだから自分で「よし、やろう!」って言えばやれるわけじゃないですか。だけどやっぱりちょっと…あと一歩踏ん切りがつかなかった部分もあって。

そんな時、大友良英さんとツアーを長いこと回らせて頂いて。大友さんも昔からインプロビゼーションをソロでやっている。大友さんから、そういうアルバムを作ったらいいんじゃない?と仰ってもらったのも後押しになりました。
それで、平野さんに声をかけて頂いたというタイミングもあって。

---いい流れが来てリリースとなったんですね。
他媒体のインタビューで、ジャズピアニスト菊地雅章さん(以下プーさん)の2012年のライブを観に行った時のお話をされていましたね。"自分の作品でもプーさんみたいな演奏にしたいなって"(「ジャズ批評247号」より)と話されていました。


類家:フリーインプロビゼーションのライブに行くと、続けざまに40分とか1時間とか演奏が続くライブも多いんですよ。プーさんのライブを観に行った時、それもやっぱりフリーインプロビゼーションのライブだったんですが、あたかも曲をやっているみたいに、1曲ずつがそんなに長くない。何も決まってないんだけどそれはとても面白くて、「へー、そういうアイデアもあるんだな」と感動しました。
今回アルバムを作るにあたって、そういう風に小品のようなものを並べていったほうが聴きやすさもあるし。アルバムとして作るんだったら、そういう感じで行こうかなっていうのはありましたね。

---プーさんは主にアメリカで活動されていたそうですが、ライブを観に行ったのはその時だけですか?

類家:そのライブはプーさんが亡くなる数年前で、日本で最後のコンサートだったんじゃないかなと思います。その前には、僕が好きなウォレス・ルーニーというトランぺッターがいて、彼が来日した時に聴きに行ったんですが、ゲストでプーさんが出ていましたね。


---類家さんは、最近公開の映画『おーい、応為』のサウンドトラックにも参加されています。大友良英さんが音楽監督でお誘いがあったわけですね。類家さんは映画音楽に参加される機会も多いですが、サントラへのご参加はお好きですか?

類家:好きですね、みんなで一つのモノを作っているという感じで。でも一方で映画音楽って大変なんだろうなとも思います。すごい数のトラックを作っていかなくちゃいけないし、締め切りもあるし、映画や作品の意図に沿った曲作りをしなければいけないし。僕は呼ばれて行くことが多いのですが、録音したものがどの場面でどう使われるのか分かってる時もあるし、後から決まっていく部分もあるので意外と出来上がってみないと全貌が分からなかったりもします。
でも、とても面白いですね。映像と音楽の関係性があってライヴとはまた別の高揚感があります。自分が演奏で関わった作品を見るのは思い入れが一入で嬉しいですね。

---ご自身でも、大友さんのような立場で映画音楽を作曲してみたいと思われますか?

類家:機会があればやりたいですね。大変だとは思いますが。やり甲斐のある仕事だと思います。

---いつか類家さんが音楽監督をされた映画を観てみたいなと思いますね。
さて、2026年のご予定について伺えますか?


類家:来年は自分のバンド(RS5pb)で中国公演が決まっていたり、大友良英さんのバンド(ONJQ)でおそらくまたヨーロッパに行くと思います。
あとは自身のアコースティックカルテットでレコーディングすることが決まっています。

---それは楽しみですね。
最近のおすすめ音楽についても伺えますか?
昨年の夏の特集ではスチャダラパーをご紹介いただき、ちょっと意外でした。


類家:この前一緒に演奏した、布施音人(ふせおとひと)さんという若いピアニストの方なんですけど、つい先日ピアノトリオのアルバムの2枚目が出たばかりです。僕はまだ1作目のアルバムしか聴いていないんですけど、それは面白くて素晴らしかったですね。


『Isolated』布施音人トリオ

彼はお父さんが作曲家で、お母さんが国立音大のピアノの教授をやっているという根っからの音楽一家なんですけど、なぜか東京大学を卒業してジャズピアニストをやってるっていう(笑)。
先日もデュオでライブをやりました。とても優しい青年なんですよ。

---私も聴いてみます。類家さんもこれまでにご一緒された演奏家は沢山いらっしゃると思いますが、若い演奏家や新しく知り合った方とも演奏してみたい気持ちはやはりお持ちですか?

類家:そうですね。面白い人がいたら一緒にやってみたいなというのはありますね。
最近は、千葉広樹さんという盛岡出身のベーシストと一緒に1stアルバム"kaYak"をリリースしました。(注:ユニット名もkaYak)現時点でカセットだけのリリースなんですよ。

---カセットとは珍しいですね。最近流行っていますものね。

類家:千葉広樹さんは、ベースではなくモジュラーシンセサイザー等を使ってトラックを作って、その上でトランペットを演奏しています。

---kaYakの今後の展開も要チェックですね。類家さんのフットワークの軽さが本当に素晴らしくて。
来年の活動も楽しみです。本日はありがとうございました。






『メタモルフォーゼ』類家心平

1. Improvisation#1
2. Improvisation#2
3. Splicing
4. Improvisation#3
5. Dear
6. Improvisation#4
7. Improvisation#5
8. Coerulea
9. Improvisation#6
10. Improvisation#7
11. Amber Gris
12. Improvisation#8
13. Improvisation#9
14. Improvisation#10
15. Improvisation#11

発売日:2025年08月28日
規格品番:DOD-056
レーベル:Days of Delight

類家心平 trumpet, sampler, pedals





◆類家心平 プロフィール

1976年4月27日、青森県八戸市生まれ。10歳の頃にブラスバンドでトランペットに出会う。 高校生の時にマイルスデイヴィスの音楽に触れジャズに開眼する。 高校卒業後、海上自衛隊音楽隊で 6 年間トランペットを担当。
自衛隊退隊後 2004 年に Sony Jazz からジャム・バンド・グループ「urb」のメンバーとしてメジャー・デビュー。タイ国際ジャズフェスティバルに出演するなど注目を集める。「urb」の活動休止後に自身のユニット「類家心平 4 piece band」を主宰。 ファースト・アルバム「DISTORTEDGRACE」を 2009 年にリリース。2作目「Sector b」を菊地成孔氏のプロデュースでリリース。その後、メンバーチェンジを経て「RS5pb(類家心平 5 piece band)」となり T5Jazz Records より 3 枚のアルバムをリリース。 2018 年 には中国・深センにて開催される「OCT-LOFT JazzFestival」に出演。集まった中国の多くの若者をそのサウンドで熱狂させた。2024 年には Reborn Wood Label より「TOTEM」をリリース。香港の Jazz Festival に出演予定。その他、都内老舗ジャズクラブ「Body & Soul」にてライヴレコーディングされたカルテット編成によるアコースティックジャズのアルバム「Lady’s Blues」をリリース。また「RS5pb」のピアニストでもある中嶋錠二とデュオによるアルバムをリリース。現在でも演奏活動を定期的に行ない、ライフワークとして活動している。2024 年ギタリスト大友良英のグループでヨーロッパ8カ国のツアーに参加。各地の公演でソールドアウトが出る程の好評を得る。JAZZ をテーマにしたアニメ「坂道のアポロン」では劇中のトランペットの演奏を担当。後に作られた実写版映画でも淳兄役のトランペット演奏を担当している。その他「菊地成孔ダブセクテット」「DCPRG」、元「ビート・クルセイダース」のケイタイモ率いる「WUJA BIN BIN」や「LUNA SEA」のギタリスト SUGIZO が率いるユニットにも参加。星野源や藤原さくら等のアーティストのレコーディングにも参加している。山下洋輔、板橋文夫、森山威男、鈴木勲などベテラン・ジャズ・ミュージシャンとの共演も多数。


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RS5pb『TOTEM』類家心平インタビュー(2024年)
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特集:Cheer Up! Summer Music 2024(2024年)
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類家心平 & 中嶋錠二『Duo』インタビュー(2023年)
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『RS5pb』類家心平インタビュー(2020年)
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Shinpei Ruike Quartet『Lady's Blues』インタビュー(2019年)
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吹部Cheer!トーク(2018年)
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私の吹部時代(2017年)
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KYOTO JAZZ SEXTET『UNITY』特集 インタビュー(2017年)
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RM jazz legacy『2』コメント参加(2017年)
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類家心平『Unda』インタビュー(2016年)
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KYOTO JAZZ SEXTET『MISSION』特集 コメント参加(2015年)
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