サックス奏者 中村智由さん、伊藤寛哲さん(ギター)、谷井直人さん(ベース)から成るアコースティック・ジャズ・トリオ trio de monochrome(トリオ・デ・モノクローム)が3年ぶりとなる待望の2ndアルバム『Into The Northen Sky』をリリースしました。
native、BLACKQP'67など様々なリーダーバンドを持つ中村さんですが、新たなユニットtrio de monochromeでは中村さんの新境地と話題に。新作『Into The Northen Sky』はますますアンサンブル、美しさ、透明感に磨きがかかり、リラックスタイムに何も考えずに聴きたくなるアルバムです。
今回は中村さんにアルバムのお話や近況についてお伺いしました。(2023年3月)

---前作から3年、ソロや他のユニットでも活躍される中村さんですが、trio de monochromeの新譜を制作することになった経緯について教えて頂けますか?

中村:レコーディングを行ったのは2021年1月、ちょうどコロナ禍の真っ只中。
演奏活動の方が思うようにできない時期で、全然レコーディングするつもりではなかったのですが、たまたまリハーサルで通っていたレコーディングスタジオの空き日程とメンバーのスケジュールが合う日があって。
このチャンスを逃せないという気持ちになり、即効レコーディング予定を入れてしまいました。

---制作期間はどのぐらいかかったのですか?

中村:レコーディングからは、丸2年費やしてアルバムを完成させました。
レコーディング事体は、メンバー3人で2日間スタジオに入って一発録りで行い、一日はゲネプロみたいな感じで終わり、実質一日でアルバム収録曲の全8曲の本テイクを録音しました。

ライブを長い間定期的に行っていて気心知れたメンバーなので、終始リラックスして演奏に集中でき、短い時間で全曲ベストテイクを録る事ができました。

レコーディング後、暫く音源は寝かせていて、少しミックスしては寝かせてとその繰り返しで、かなりスローペースで自分自身でミックス作業を行いました。

---制作について、前作と変わったところはありますか?

中村:前作も自分でミックスを行っていて、その過程は同じですが、前作ではシーケンスソフトでバックトラックを打ち込んで作ったりエレクトロニカ風のテイストを出しているのが、今回のアルバムは、生音オンリーのアコースティックサウンドになっています。

---今回のアルバムも前作同様、季節や場所を問わず、ほっと落ち着く気持ちになれて本当にリラックスできますね。本作のコンセプトについてはいかがですか。

中村:僕が好きな感じが抑制感のあるクールなサウンドで、初期のnativeのサウンドにも共通するのですが、曲想にはバラエティーがあるのに上がり過ぎない一定のテンションを保つことでcool&stylishなコンセプトになったと思います。

---ユニット結成から時間を経て、メンバーとの関係性はいかがですか?

中村:メンバーの年代が三人とも違うので、普通に音楽抜きの会話ではジェネレーションギャップもあると思うのですが、それぞれのキャリアを尊重して年齢的な上下関係を感じない付き合いができているかと思います。(多分!?)
バンドの活動も、それぞれの個人の活動に支障をきたさないようにやっているのでストレスも少ないかと。その辺は、結成当時からあまり変化なくうまくいっている気がします。
長く一緒に活動するには、気楽にできることも大切だなという、これまでの経験から感じることです(笑)。

---作曲はカヴァー曲の「Home」をのぞいて全て中村さんとのこと。
作曲について、以前からの変化はありますか?


中村:クラブジャズコンセプトのバンドでは、興味を持って聴いてくれるリスナーの好きな音像がイメージしやすかったのですが、trio de monochromeでは、対象となるリスナーが見えない状態で作曲しているので、より自分の内向的な世界観を表現していると思います。

---ここからは曲ごとにお伺いします。
◆1. Pupil
---前作『残像 -après l’image-』にも収録の曲ですね。前作より秘めた情熱というか、さらに落ち着いた雰囲気に感じます。こちらのバージョンもいいですね!たちまちアルバムの世界に入り込めます。
パーカッションはどなたが演奏されているのですか?


中村:前作ではバックトラックに合わせて演奏しているのでソロサイズや構成展開も決まっていたのですが、今回はほとんど決め事なしに自由に演奏したのでライブの臨場感ある音源に仕上がりました。
コンガは、名古屋の若手ドラマー、パーカッショニスト水野祐太君にお願いしました。

◆2. Into The Northern Sky
---ギターの音色が綺麗ですね。うっとり聴き惚れます。
中村さんのサックスの旋律はちょっと寂しさも感じるような切なさもありますね。
アルバムタイトル曲となりますが、タイトルについて込めた思いはいかがですか?


中村:北欧ジャズをイメージして作曲しました。
北欧の北からイメージを膨らませてこのタイトルに辿り着きました。 
作ったメロディーラインがやっぱり日本人っぽいので北欧ぽくなったかわかりませんが…
どことなくノスタルジックでリリカルな雰囲気がでたので、とても気に入っています!

◆3. 残像 (après l’image )
---前作『残像 -(après l’image-)』のタイトル曲。前のバージョンとはまた違い、パーカッションがパンチ効いていて軽快な印象。今回、前のアルバムに収録の2曲を再度入れた経緯についてはいかがですか?


中村:急に決まったレコーディングだったので準備期間がなく、新曲だけでなく既存のレパートリーも入れてのレコーディングとなりました。
挿入した2曲は、よくライブでもやっている曲です。
前作は打ち込みのバックトラックを使ったので、ライブで行っているそのままの雰囲気でも音源を残しておきたくて再録音しました。

◆4. Dream Of Interlude
---今作唯一のヴォーカル曲。ゲストのTomokaさんの素敵な歌声、このユニットにとてもマッチしていますね。Tomokaさんのご紹介をお願いいたします。


中村:Tomokaさんは、2004年リリースのnativeの1stアルバム"snobbism"でゲストヴォーカルとして参加してもらって以来、自分のレコーディングワークでヴォーカルが必要な時にお願いしています。

当時僕が参加していたビッグバンドの歌のゲストでTomokaさんが入ったのが出会ったきっかけです。その時の歌声がとても印象に残っていて、nativeが1stアルバムで歌曲を挿入することが決まって、直ぐに歌ってもらうようお願いしました。
nativeの曲がたくさん選曲されているYoutube動画"作業用BGM ストレス社会に捧ぐ"は、200万回再生を記録し、特にTomokaさんの歌った"a wish for you"は、とても好評でした!

◆5. Silence Of Space
---静かで寂しく…でも聴き手のその時の気持ちで違った聴こえ方をするような、不思議な曲ですね。


中村:タイトル曲"Into The Northern Sky"もそうですが、ヨーロピアンジャズを意識して作りました。
この曲は、ドイツのレーベルECM的なミニマルで空間的なサウンドの雰囲気に仕上げたつもりです。

◆6. Turn Around
---前向きで元気が出て、旋律が優しくて!とても好きです。


中村:オリジナル曲が全体的にクールで尖ったサウンド寄りなので、わかりやすくキャッチーなメロディーの曲も入れておきたくてこの曲を作りました。

曲順的にこの曲の前まで張り詰めた緊張感があって、自分的にはそのテンションがすごく心地いいのですが、一般的に聴きやすいという意味で、この曲でほっと一息つけるオアシス的な位置付けになったかなと思っています。

◆7. Home
---ミシェル・ペトルチアーニのカヴァー。原曲もtrio de monochromeの演奏も、温かく優しいですよね。この曲をカヴァーした経緯はいかがですか。また、ミシェル・ペトルチアーニのアルバムで中村さんのおすすめがあれば教えてください。


中村:一作目のアルバムでは、カバーでスウェーデンのピアニスト ラーシュ・ヤンソンの"hope"を入れたので、今回もカバーを一曲選曲しました。
ミシェル・ペトルチアーニの曲は、エモーショナルで素敵な曲が多いですが、この曲は、旋律が美しく特に好きな曲です。

この曲も挿入されている ミシェル・ペトルチアーニ(piano)、アンソニー・ジャクソン(bass)、スティーブ・ガッド(drums)のトリオによる演奏が素晴らしい。
Trio in Tokyo (Live)、 大好きなアルバムです。

『Trio in Tokyo (Live)』Michel Petrucciani


◆8. Ce Faci ?
---Ce Faci ?とはどういう意味なのですか?
情熱的な曲調で、途中アップテンポ4beatになったりかっこいいですよね。ライブで盛り上がりそうです。


中村:Ce Faci?はルーマニア語で、英語で言うと How are you ? と同じ意味です。
昔仲良くしていたルーマニア人の友達がいつも挨拶で言ったのが頭の中に残ってる言葉です。
ルーマニアは、東欧の中で唯一のラテン民族が多数を占める国で、僕の友達もとても情熱的でエネルギッシュです。
この曲もアルバム中で唯一アップテンポのアフロ-スイングで、抑制されたクールなバンドカラーからはテイストが違うのですが、バンドの秘めたるエネルギーが伝わるといいなと思っています。
アルバムのラストに相応しい曲になりました。

---前回はライブについて「その時々によってアコースティックのみでジャズ色を強くしたり、打ち込みトラックを使ったりと、その都度ごとに形態を変更してライブを行なっている」とのことでしたが、現在はいかがですか?

中村:最近は、ライブで打ち込みトラックは使っておらず、アコースティックオンリーです。
このアルバムのレコーディングから2年経ってバンドもまた変化しています。
今は、音源より更に緩い音の波を作り出している感じです。
よりコアな方向に向かっているかもしれないですね(笑)。

---毎度恒例になりましたが、最近の中村さんの映画作品のおすすめがあれば教えてください。

中村:今年2023年に入って観た映画では、インド映画『エンドロールのつづき』、フィンランド映画『コンパートメントNo.6』が良かったです!

---最近の中村さんのCheer Up!ミュージックについてはいかがですか?

中村:最近気に入ってよく聴いてるのは、ノルウェーの女性ヴォーカリストAnna Gretaさんの(偶然にもtrio de monochromeのアルバムタイトルに似てるんですが)アルバム" Nightjar in the Northern Sky”。アルバム通して静かな夜のイメージ、むちゃお洒落でカッコいいです!

『Nightjar in the Northern Sky』Anna Greta


---2023年、trio de monochromeとしてのご予定、また中村さんご自身の今後のご予定、抱負などを教えて下さい。

中村:trio de monochromeは、無理せずこれまで通り1〜2か月に一度のペースでライブ活動を継続していきたいです。
アルバムリリースを通して全国で知ってもらえるきっかけになったので、名古屋以外の場所でもライブができたら嬉しいですね。

僕自身は、バンド活動を頑張るし、それ以外にもプレイヤーとしていろんな人といろんな音楽を演奏できるよう自分自身を磨いて精進していきたいと思います!

---どうもありがとうございました。trio de monochromeのライブを地元で聴きたい!と望んでいるファンが全国にいると思います。ますます応援しております。












Into The Northen Sky / trio de monochrome

1. Pupil
2. Into The Northern Sky
3. 残像 (après l’image )
4. Dream Of Interlude
5. Silence Of Space
6. Turn Around
7. Home
8. Ce Faci ?

規格品番:NAT-0010
発売日:2023年3月10日
レーベル:nat records
価格:¥3,000 (税込)



trio de monochrome
トリオ・デ・モノクローム

中村智由(sax)
伊藤寛哲(guitar)
谷井直人(bass)

作品サイト
http://www.inpartmaint.com/site/36470/



◆中村智由 プロフィール
中村智由/大学卒業後、プロのサックス奏者として活動開始。ダンスホールやジャズクラブでの演奏活動を経て、1999年ジャズバンド”native”を結成、ドイツ、中国など海外での公演、国内最大級のフェス サマーソニックへの出演、海外レーベル含むむ10枚のアルバムをリリース、CDショップのセールスランキングにチャートインを果たす。演奏活動と並行してサウンドプロデュースも行っており多数の人気カバーアルバムを制作、生音中心のクールで都会的な表現を得意としている。

中村智由 Official Web Site
http://blackqp.iiyudana.net/
中村智由 Twitter
https://twitter.com/blackqp67




◆伊藤寛哲 プロフィール

1990年生まれ。愛知県弥富市出身。
ギターリスト、コンポーザー。2009年、甲陽音楽学院に入学。
Berklee international scholarship、Berklee Asia scholarship を取得し、2013年バークリー音楽大学に入学。Jon Damian 、John Willkins、Bret Willmotに師事。自身のバンドやサイドマンとして多数のレコーディングに参加し、ボストンのレストランやバー等で演奏。2014年、オランダ(アムステルダム)に留学。Martijn van iterson、Jesse van ruller に師事。2015年5月、帰国。2018年1月より自身のオリジナル曲のみでライブを構成したバンド「QUIN’ KRANTZ」を始動。名古屋、東海地方を中心に活動中。

伊藤寛哲 Official Web Site
http://hirosato.ciao.jp/
Twitter
https://twitter.com/hirosatoito



◆谷井直人 プロフィール

愛知県春日井市出身。24歳よりウッドベースを始める。
ジャズベースを大久保建一、島田剛に師事。アルコ奏法を水谷まいに師事。
現在は、天野雅康クインテット、中川聡子カルテット、楽団四器、等のバンドに参加。
東海地区を中心にライブ活動を行なっている。

谷井直人 Official Web Site
http://jazzbass-taniinaoto.site/
Instagram
https://www.instagram.com/naototanii/

<Cheer Up!関連リンク>
trio de monochrome『残像 -après l’image-』インタビュー(2019年)
http://www.cheerup777.com/monochrome2019.html
Tokyo Simple Jazz Trio『Wendy』インタビュー(2021年)
http://www.cheerup777.com/2021nakamura.html
QUIN' KRANTZ(クインクランツ)伊藤寛哲インタビュー(2018年)
http://www.cheerup777.com/quinkrantz.html
Tomoyoshi Nakamura Quartet『Dance With The Wind』インタビュー(2016年)
http://www.cheerup777.com/native.html
native『liberation』インタビュー(2014年)
http://www.cheerup777.com/native.html





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