2014年12月にアルバム『Pandora』をリリースした大野方栄さん。
近年ハイペースでアルバムを制作なさっている大野さんには、『Pandora』リリースの際にご自宅にお邪魔してアルバムと大野さんの音楽人生についてじっくりインタビューさせて頂いた。

そして待望の新作『セブン』、7枚目のアルバム、そして収録された13曲の中には"7つの恋歌"が含まれているとのこと。
恋歌といえば、大野さんの真骨頂。
うっとりするような恋の歌、切ない恋の歌。
大野さんの甘く美しい声で歌いあげられる世界を味わいつつ、今回もまた共演ミュージシャンの素晴らしい演奏をたっぷり味わえる贅沢なアルバム。
大野さんに、この『セブン』についての想いを伺った。
また、『セブン』参加アーティストの皆様から大野さんへのコメント、メッセージを頂いた。(2016年2月)



<大野方栄インタビュー>   <『セブン』リリースに寄せてコメント>


---今回のアルバムでは、ニューヨークを拠点に活動されているミカ・モリさんと、彼女が率いるミカ・サンバ・ジャズ・トリオの皆さんとの共演が特徴的ですね。


大野:本格的なジャズサンバを演奏出来る人達は現在、世界的にも非常に限られているのですが、ミカちゃんとハファエル氏とバホーゾ氏の3人は、モダンでありながらも、ちゃんとしたサンバのリズムを踏襲している数少ないトリオなのです。
今回のアルバムでも、彼らに演奏して頂けて本当に良かったと有り難く思っています。


---ミカ・モリさんとの出会いのきっかけを教えて下さい。


大野:ミカちゃんとは、20年以上前に音楽仲間の紹介で出会いました。
当時彼女はバークリーの奨学生として渡米しようか、或いはブラジル音楽をちゃんと学びにブラジルに行こうか迷っていた時期でした。
結局バークリーを蹴って、ポルトガル語も全く出来ないのにブラジルに音楽留学したのですが、あの時の彼女の決断は間違っていませんでした。
ブラジルの音楽学校を主席卒業した後、リオの素晴らしい音楽家達と交流して、ハファエル氏やバホーゾ氏と出会いトリオを結成しました。
彼女のお陰で私は今もCD制作出来るのです。


---ライナーノーツによると、13曲の中に"7つの恋歌"が含まれているというのが粋ですね。


大野:今回のアルバムのコンセプトは、お友達でもあり、歌詞カードのエディターにもなって頂いている齋藤惠さんの提案によるものです。


---ここからは一曲ずつ伺わせて下さい。


1. そっけない人
---原曲はチャーリー・パーカーの「Scrapple from the Apple」。
大野さんのコーラスワークは、低音がいつもの大野さんの歌声と違っていてちょっと驚きました。
モダンジャズの名曲でも、大野さんが歌ったらいいだろうなあと思うような曲が沢山あります。



大野:昔からチャーリー・パーカーが大好きです。
今年は6月からまた新譜の録音を予定しているのですが、ブラジルで現在最先端の音楽と思われるアーティストの曲や、誰もが知っているジャズのスタンダードのボーカリーズを予定しています。
勿論オリジナルの曲もあります。^^



2. Mirabelle
---アップテンポのサンバにのせて大野さんのスキャットが心地良くて、もう最高にテンション上がります!
作曲はミカ・モリさん。ミカさんのエレピもかっこいいですね。
以前ミカさんも参加されたアルバム『Brasil』を出されましたが、大野さんにとってブラジル音楽はどんな存在なのでしょうか。



大野:ブラジル音楽は10代の頃から聴いて親しんでいる音楽です。
アルバム『うるとら』で実際に本場の本気のサンバのプレイヤーの演奏で歌ったことによって、益々リズムの理解が深まりました。
ブラジル音楽はリズムがとても面白いですし、また非常にメロディアスな曲が多くて、本当に素晴らしいと思います。



3. 哂う女
---ゴージャス志向の女性を描いていますが、「こんな生活をしたい!」と華やかな内容なのに曲調が暗くて「彼女は満たされない思いを抱いている虚しい気持ちの女性なのかな?」と想像力をかきたてられました。
原曲はスウェーデンの女性ヴォーカリスト、Rigmor Gustafssonの「Rain just Rain」。
この曲との出会いのきっかけは?大野さんのアンテナの高さにはいつも驚かされます。



大野:インターネットでRigmor Gustafssonさんの事を知って以来、大ファンになりました。
流通が悪いせいで、彼女の素晴らしい音楽が日本ではまだまだ知られていなくて悔しいです。
彼女の姉妹であるChristina Gustafsson のアルバムも、超・お薦めです。
実はこの歌詞はCielさんという女性がイメージのモデルになっています。
Cielさんは世界中を優雅にご旅行なさっていらっしゃる女性なのですが、私は彼女のブログのファンなのです。



4. すきすきだいすき
---可愛らしい女性ですよね〜。甘くとろけそうです。
デビューアルバム『マサエ・ア・ラ・モード』の1曲目「For Darling」を思い出しました。
大野さんの歌にはいろんな女性が登場しますよね。全部ご自身の分身なのでしょうか?それとも想像?この曲はどちらなのでしょう!そのあたりをぜひ教えて頂けますか?



大野:うははは!私はとっても幼稚な人間なので、この曲に関しては私自身を反映している歌詞です。
勿論、曲によっては全然自分ではない人間を想像(或いは妄想)した歌詞も書いています。



5. 幼なじみ
---胸キュンのラブソングですね。ストーリーが素敵です。
大野さんのアルバムでおなじみ、菊地康正さんのフルートとサックスがまた美しくてちょっとノスタルジックなところがまたいいですね。



大野:ミカちゃんが私の為に書き下ろしてくださったのですが、菊地康生さんの素晴らしいアレンジと演奏で、ふんわりと優しい曲になりました。
ベーシストの高橋ゲタ夫さんのご紹介で菊地さんとお近づきさせて頂くようになりました。
今の日本でこういう素晴らしいアレンジと演奏が出来る音楽家は他にいないと思います。



6. 冬の星座
---心がすーっと落ち着くような美しい歌。ミカさん作曲ですね。
ミカさんのピアノやハモンドオルガン、エレピが多重録音されているとのこと。
今回のアルバムではミカ・モリさんの曲が多いですが、ミカさんの曲が先行して、歌詞はあとで付けたのでしょうか?



大野:「幼なじみ」だけは歌詞先行で、あとは全部曲先行です。



7. 仲間たちに乾杯
---カエターノ・ヴェローゾがガル・コスタに贈った「Dom de Iludir」が原曲。
前作「Pandora」でもご活躍の高田信さん(Programming)中村隆志さん(Gt)がコーラスにも参加されているんですね。
とてもしみじみする歌詞。寂しさもありつつ、仲間を大切になさる大野さんらしい歌だと感じました。



大野:ギターの中村隆志さんは、30代の頃のバンド仲間でした。
彼もブラジル音楽が大好きなので昔から話が合いますし、とっても楽しいギタリストで頼りがいがある男性です。
高田さんとはTwitterでお友達になりました。彼は本業が建築家でとても忙しい人なのですが、いつも無理やりお願いして録音にご参加頂いています。高田さんは普通の音楽家にない豊かな感性と発想に溢れていらっしゃるかたなので尊敬しています。



8. Eccentric Person Come Back to Me
---「Lover, Come Back to Me(恋人よ我に帰れ)」が原曲。この歌はデビューアルバム『マサエ・ア・ラ・モード』でも特に印象的な一曲でした。
今回はアップテンポの4ビート。『マサエ・ア・ラ・モード』とはまた違った良さがあり聴き入ってしまいました。
今回のアルバムで、再度この曲を歌おうと思った経緯は?



大野:この曲は元々4ビートの曲なので、いつかちゃんと4ビートで録音したいと思っていました。
リズムが違うとサウンドも全然違ってしまいます。今回ちゃんと録り直せて良かったと思っています。



9. そんな朝が来たら
---ピアノとベースというシンプルなバッキングにのせて歌われる幸せな光景。
原曲は「スターダスト」の作曲者、ホーギー・カーマイケルの「The Nearness of You」。
この、シンプルだけど胸にしみる歌に寄せる想いを教えて頂けますか?



大野:ローランド・ハナ氏のプレイのボーカリーズで、原曲の感じを壊さないように全く同じ編成で演奏して貰った上に歌を重ねてみました。
前の曲がラバーカムバックトゥーミーで物凄く速い4ビートなので。こういうゆったりしたテンポの曲が次に来ると、ほっと出来るかしらと思って配置しました。
音楽に限らず何でも、シンプル・イズ・ベスト・・・って 良いですよねぇ。^^



10. Doskoi
---あの有名なスタンダード「Donna Lee」が「Doskoi」って!
吹っ切れたような突き抜けた歌詞が爽快ですね。そして、楽しい歌だけどベースソロやフルートソロなど演奏が超クール。そのギャップがまた良くて。
「Doskoi」といえばやはり大野さんのブログ「どしゅこいの大嘘吐き日記」を思い出します。
大野さんにとって「Doskoi」とは人生の合言葉なんでしょうか?



大野:本当はこの曲は4ビートで録音するつもりだったのですが、レコーディング中にドラムのハファエル・バラータ氏が「ドナリーってまだ誰もサンバのリズムで録音していないからサンバでやろうよ〜」っと提案してくれて決定しました。
そうです!どすこいは私の人生の合言葉です。^^



11. 嘘は罪
---原曲は「さよならを教えて」ですね。トランペットが60年代風、ちょっとハーブ・アルパートを思わせます。トランペットの石川広行さんはどんな方ですか?
ドラムはスタジオDedeのオーナー、吉川昭仁さん。吉川さんについてもご紹介お願い致します。



大野:石川さんとは吉川さんのご紹介で出会ったのですが、まだお若いのにとっても素晴らしいトランペッターだと思いました。ストイックな感じで素敵な男性です。
吉川さんには、アルバム『うるとら』からずっとお世話になりっぱなしで、彼に足を向けては寝られないくらいに本当に本当に神様みたいに有り難い存在です。
彼のスタジオなくして私の音は成立しません。
ジャズドラマーでありミキサーでありスタジオのオーナーであり、最高の人格者・音楽家です。



12. 花のうた
---アルバムで唯一、作詞は大野さんではなく、前作「Pandora」でも曲を提供なさった高田信さんの作詞作曲の歌なんですね。
しみじみとあったかい気持ちになれる、本当にいい歌。高田さんが作ったこの歌を選んだ理由を教えて下さい。



大野:高田さんは天才的な作曲家であり音楽家なのです。
彼の書く曲はどれも普通じゃないし、そしてどれもメロディアスです。
この曲を初めて聴いた時に『絶対に!歌いたい!』っと霊感しました。
沢山アイディアの引き出しのあるかたです。



13. みどりのゆび
---ミシェル・ルグラン「トロンボーンとギターと楽団」が原曲。それが畑での収穫をテーマにした歌になるなんて驚きです。
ミシェル・ルグラン側の許諾が下りるのに時間がかかったとか。前作同様、許諾関係もまた大変だったのですね。
大野さんがご自身でバイオリンとトライアングルを演奏!ご自身で演奏することになった経緯は?




大野:この曲の原曲でもバイオリンとトライアングルが入っているのですが、私もちょっとだったら出来るかも?出来るといいかな?・・・っと思いながら経費節減もあってやってみたら、たまたま上手くいったのでOKにしました(笑)。
この曲の許諾がおりるのに半年間待ちましたが、でも待った甲斐がありました。



---大野さんのどのアルバムもそうなのですが、この『セブン』も何度も繰り返し聴きたくなる凄いアルバムですね。
今後、どんなアルバムを作りたいとお考えですか? 



大野:6月に録音を予定しているアルバムでは、今までよりももっとゴージャスな内容にしたいと思っています。
オーケストラと一緒に!・・・っと言いたい所ですが(笑)自主制作なのでそこまでは叶いませんが、それに近い音創りにしたいと思っています。



---前作『Pandora』インタビューでは、大野さんの"Cheer Up!"ミュージックは、鈴木茂さんの『バンドワゴン』の1曲目「砂の女」、細野晴臣さんの『HOSONO HOUSE』や、ユーミンの「ひこうき雲」と伺いました。
最近の大野さんの"Cheer Up!"ミュージックがあればぜひ教えて下さい。



大野:最近は、ドイツのジャズシンガーのErik Leuthäuserと、イギリスのジャズシンガー&マルチプレイヤーのJacom Collierをヘビロテで聴きまくっています。
彼らは二人ともとても若くて才能が湯水の様に溢れているタイプの音楽家です。



---どうもありがとうございました。次回作も楽しみにしております!!






『セブン』 大野方栄

1. そっけない人
2. Mirabelle
3. 哂う女
4. すきすきだいすき
5. 幼なじみ
6. 冬の星座
7. 仲間たちに乾杯
8. Eccentric Person Come Back to Me
9. そんな朝が来たら
10. Doskoi
11. 嘘は罪
12. 花のうた
13. みどりのゆび

レーベル:HOUEI MUSIC
品番:HOUEI007
発売日:2016年2月12日
価格:3000円(税抜)



大野方栄 プロフィール

800曲以上のCMソングを歌ってCMソングの女王と言われる。代表作に伊勢丹、丸井、すかいらーく、Moonyちゃん等。『ひらけポンキッキ』で「チャールス豚三世」、『思いっきり探偵団 覇悪怒組』OP「摩天楼のヒーロー」などのアニメソングを歌う。ムーンライダーズやキミドリ、サンズ・オブ・ナイス・ヤングなど多くのバンドのバックコーラスを担当する。歌詞提供、またナレーターの仕事をする。
会社経営者の娘として東京に生まれ育つ。幼稚園から小学6年までピアノのレッスンを受ける。日本女子大学附属豊明幼稚園からエスカレート方式で同高等学校に進み、高校2年のとき荒井由実のライブを聴きに行ったことがきっかけとなり、ユイ音楽工房とクラウンレコード主催のシンガーソングライターコンテストで入賞。日本女子大学文学部国文科に入学と同時に音楽活動を始める。
1983年8月、ソロアルバム『MASAE A LA MODE』(カシオペアが参加)をアルファレコードからリリース。
2012年9月、29年振りのソロアルバム『うるとら』、『First Class』を2枚同時に発表。
2013年7月、ソロアルバム『聚楽』を 発表。
2014年4月、ブラジル録音したソロアルバム『Brasil』を発売。
2014年12月、ソロアルバム『Pandora』、 『マサエ・ア・ラ・モード』復刻CDを同時発売。
2016年2月、最新作『セブン』を発売。


どしゅこいの大嘘吐き日記(ブログ)
http://ameblo.jp/dosyukoi/

Twitter
https://twitter.com/MasaeOhno



<Cheer Up! 関連記事>

アルバム『Pandora』インタビュー
http://www.cheerup777.com/pandora.html

特集 大野方栄
http://www.cheerup777.com/masae.html




(C)2009-2016 Cheer Up! Project All rights reserved.