今回ご登場頂くのは、作曲家の松本淳一さん。
映画音楽、CM音楽、舞台音楽など幅広く手掛けられ、是枝裕和監督作品「そして父になる」では日本アカデミー賞音楽優秀賞を受賞。
1994年にはインターナショナルエレクトーンコンクールで第一位受賞、エレクトーンの演奏家として活躍していた松本さん。ちょうどそのコンクールを聴きに行って以来ずっと気になる存在だった松本さんに念願叶ってのインタビューが実現した。
2016年2月には2ndソロアルバム『0 Canyon』をリリース。今回は聴き手の想像力をかき立て、心地良さをたっぷり味わえるこの素敵な作品のお話を中心に、音楽ヒストリーについても伺った。(2016年7月)



---今回のアルバム『0 Canyon』は、[カラリト]と呼ばれる架空の半島をめぐり繰り広がるサウンド郷という趣旨だそうですね。
アルバムを聴きながら想像が広がっていきますが、このユニークなコンセプトを思いついた経緯を教えて頂けますか?



松本:自分自身を表現する事に随分長く興味持てずにいたのですが(故に映像音楽が多分向いているんだと思います)、そろそろなにか作らにゃ感にも苛まれている時、これは、なにか子供のように楽しめる遊び場みたいなのを設定しないと、多分作れない・・・と思いつつなんだかんだ夢想してるうちに、勝手に色々湧き出てきました。



---レコーディングで印象的なエピソードがあれば教えて頂けますか?


松本:ピアノがフルコン(注:フル・コンサート・ピアノ)でもなく普通のYAMAHAなのですが、意外にそのピアノが良くって、「木陰にて」の録音がなんだか楽しかったです。



---松本さんが結成なさった、テルミンとオンドマルトノの為のユニット[MATOKKU]もこのアルバムでコラボレーションしているそうですね。
メンバーのトリ音さん(テルミン)、久保智美さん(オンドマルトノ)はどんなお人柄なのですか?



松本:お二人とも、きっと茶飲み友達として老後も集まるだろうなぁ、という感じの友達です。
寄り合いというか。
練習より、一緒に皆で色々なもの食べ歩く時間の方が、多分長いですね。気のおけない仲間です。

ただ、楽器や音の事になるとキャラが皆一変し、音楽の中身についてもそれぞれの持ち場をしっかり担うプロ意識があり、庶民的なところと職人気質のバランスにおいて、僕の信頼している方々です。



---ここからは一曲ずつお伺いします。

1. 0 Canyon
---ドラマ『廃墟の休日』のテーマ音楽だったのですね。
曲のタイトルは、架空の半島[カラリト]の0峡谷とのこと。なぜ「ゼロ」なのか気になるところです。
静かな中にピアノが光輝くようにキラキラしていて、後半からオンドマルトノやストリングスの響きが曲を盛り上げていきますね。



松本:この曲は、自分の世界感や音楽性というよりも、「音」「空間」に内包している「音楽」そのものを表現したかった感じです。
自分がゼロになって、音をただ味わっていたかった、という感じです。



2. Sea Gull
---同じピアノのフレーズが続くけれど、フレーズごとにエフェクトが異なっているのでしょうか、そこが面白いですね。
このアルバムはジャケットの絵がとてもきれいで、絵を眺めながら聴きました。
絵と音楽のコラボレーション、この絵を描いた方との出会いについても教えて頂きたいです。



松本:iPhoneで何気なく録った雑なピアノをmacに取り込んで作りました。
アートワークは、ツタヤでイラストレータ名鑑的な本を手に、一番気に入った方に直接メールしました。
大阪にすんでる日下明さんという方とスカイプで打ち合わせを重ね、僕のイメージ以上の絵を叩き出してくださいました。
彼の絵を受け、最後の部品が見事にカチャッとハマり、全てが生き物のように動き出した感じでした。



3. Pathetic
---冒頭はオンドマルトノでしょうか。途中からはテルミンとオンドマルトノのユニゾン。
こういう編成はなかなか聴けないですね。本当に美しくて感激しました。
このベートーベンのピアノソナタ悲愴の第二楽章を、今回のアルバムに入れた経緯を教えて頂けますか。



松本:一番好きなメロディーを自分の楽曲としてリクリエイトする、という目的を決めて取り組みました。
また、ユニットMATOKKUのLIVEで、誰もが知ってるメロディーを弾いていこう、という経緯もありましたね。
そういえば一番自分が好きなメロディーってなんだろう、と思った時、色々浮かんだのですが、小学生の時から特にこのメロディが好きだったのを思い出しました。
三転から一転に落ちるコードとメロディーの跳躍が僕が音楽の中で一番好きなクリシェなのですが、原因は多分このメロディーです。

オンドマルトノとテルミンは基本的にメロディーを弾く楽器です。
そして非常に不安定で繊細な奏法と楽器構造を通し発音されます。
更に、僕のピアノも複雑なリハモの連続にし、砂上の楼閣の上で極上の夢を提供する、みたいなテーマでアレンジしました。
録音したままだとジャストピッチの弦カルも加わり結構吐きそうでしたが(笑)、MIXの段階でようやく思い描いた情景に近づけられました。
僕自身、この曲はかなり気に入っています。



4. ReRhythmico
---カチャカチャした音、グリッサンドなど音の重なり合いが面白い曲。
松本さんは「手芸のような音楽」を作っているとのことですが、そのあたりをもう少し詳しく教えて頂けますか。



松本:この曲は、アイスランドにいく前の東京で、悶々としながらちくちく作ったトラックです。
当時ローランドのポータブルレコーダーが出回りはじめ、それを早速購入しピアノレンタルスタジオで素材を即興で貯めていって、自宅でエディットして作っていった曲です。



5. At the End of the peninsula 'KARALITO'
---美しいメロディにうっとりしながら考えました。このアルバムを貫くテーマ「カラリト半島」の先で松本さんは何を想うのでしょうか。
アイスランド留学のご経験が「カラリト半島」のイメージにつながったのでしょうか?



松本:そうですね。なんとなくアイスランド的な曲だと自分でも感じます。
架空の半島なのですが、ほんとうに、架空です。
なにかから起草とかもなく、ぽかんと、空想のなかで、浮かんでいて、今も頭にあります。
葦がゆれるかんじとか、苔が生えてるとか、青い感じとか。



6. Morning Juggling
---松本さんのブログによると、カラリト半島の住民はジャグリングしながら朝食をとるんですね。
オーケストラサウンドの中におもちゃの音が沢山使われ、遊び心たっぷりの楽しい曲。
今の松本さんにとっては、おもちゃをはじめいろいろなものが楽器になり得るのかな?と思いますが、そのあたりはいかがでしょうか。



松本:普通な楽器の普通な奏法をするのは、なるだけ最後の段階に考える傾向がありますねー。



7. Miracle key
---ボーカロイドを取り入れた曲。躍動感のある曲調の中に実際の歌手では歌えないようなフレーズの使い方をしているのが面白いです。
ボーカロイドというものをどのようにとらえていらっしゃいますか?



松本:ボーカロイドは音色のひとつです。
柔らかくって雲のようで幼く無垢でまっすぐでもあって、気に入っています。



8. Swingin' Colors
---賑やかでカラフルで、おもちゃの音も沢山入っていてウキウキする曲ですね。
寒そうなカラリト半島に春が来たのかな?住民たちが散歩しているのかな?などと勝手に想像しながら聴きました。ピアノの旋律が本当に楽しそうで、なんだか嬉しくなります。



松本:そういって頂けると嬉しいです。
ワクワク感、音をただウキウキ楽しむ感、を出したかったです。



9. Star
---Starということで、夜の静かな曲なのかな?と思ったら躍動的なかっこいい曲で、星たちのダンスだろうか?なんて、これまた想像がふくらみました。このアルバムは一曲ごとにどんなサウンドが出てくるか分からない楽しさがあります。


松本:あまり意味もなく、こういう曲も作りたいな、という感じです。
メロディやハーモニーがある事って、ダサいなと思う傾向がありますが、この曲は、逆にそういった要素押しですね。



10. A boy in the Summer
---オーボエのメロディー、ストリングスとピアノとの掛け合いが美しく聴きほれます。
心が穏やかになるような音楽。松本さんが作るフルオーケストラの音楽も今後どんどん聴いてみたいです。



松本:ありがとうございます。今後沢山作ります。



11. In the Shade of a Tree
---ピアノで奏でられる小曲でアルバムの締めくくりですね。
カラリト半島の物語はまだまだ続くのでしょうか?



松本:わかりません!一旦終了です。
この曲がこのアルバムで一番気に入っています。
録音する前日当日に出来ました。



---ここからは松本さんの音楽ヒストリーについてお伺いします。
一番古い、音楽にまつわる記憶はどんなものでしたか?



松本:父が気まぐれで購入したエレクトーンでした。
付属の楽譜を見ながら父が弾いてた全部Cコードの「知床旅情」を聴きつつの、「なんぢゃごるぁ」という自分の心の叫びと父の堂々としたシルエットが最初の音楽体験記憶ですね。。。



---松本さんは小学2年でヘクター・オリベラ氏のオルガンコンサートに行ったことに大きな衝撃を受けたとか。
学生時代はエレクトーンやカワイのドリマトーンをずっと弾いていらしたそうですが、松本さんにとって学生時代に電子オルガンを習ったことはどのような経験でしたか?



松本:巨大なおもちゃで、ほんとにワクワクしっぱなしでした。



---国立音大作曲科に進まれ、在学中の1994年にインターナショナルエレクトーンコンクールで第一位受賞。
私はちょうど聴きに行きましたが、松本さん作曲の「I will comfort you」は涙が出るほど美しくて忘れられません。その頃の想い出話などあればお願いできますか。



松本:あまり覚えてませんが、コンクールで一生懸命に弾いて作ってましたね。
曲作るのって、どうやればいいんだろう、というのを常に自分一人でものすごく考えていました。
それが今もいきてます。



---ヤマハのエレクトーンプレイヤーはお辞めになり、もうエレクトーンを演奏することはないとのこと。
エレクトーンをやっていたことで現在も役立っていることがあるとしたら、それはどんなことですか?



松本:音色を選ぶ時の「なにか」でしょうね。
それはKAWAIドリマトーン時代からの流れで、ずっと繋がっていることです。



---松本さんの過去のインタビュー記事を読み、作曲について以下のことばが印象に残りました。
「素朴でシンプルな力のある音楽が好き」
「自分の出会ったことば、音楽の断片、いろんな経験がぐるぐる渦を巻いている球体になっている」
今は、そのあたりをどのようにお考えか教えて頂けますか?



松本:今は逆に出来るだけそういうものを無色透明にしたい、と思うようになりました。
昔より、直接音楽や音にアクセスするようになったと思います。
自分の感覚そのものを、より強く信じるようになっています。



---アイスランドに2009年〜2011年まで留学されていたとのこと。
アイスランドでの生活は一言では難しいとは思いますが、どんな生活でしたか?



松本:変化のはじまり、という感じです。



---帰国後、舞台音楽、映画音楽など幅広く手掛けられるようになった松本さん。
是枝裕和監督作品「そして父になる」で日本アカデミー賞音楽優秀賞を受賞されました。
その後、人形アニメーション映画「くるみ割り人形」や2015年SABU監督作品「天の茶助」の音楽もご担当。
映画音楽や舞台音楽の楽しさ、難しさはどんなところですか?



松本:映像音楽や舞台音楽は、独自の世界がその仕事ごとにあります。
そこに呼ばれる楽しさが、一番大きいです。
色々な世界に触れさせてもらっていて、ほんとに感謝です!



---音楽を離れたご趣味、リフレッシュ方法などあれば教えて頂けますか?


松本:旅行です!



---このWEBマガジンのインタビューでは恒例の質問です。
松本さんにとっての「Cheer Up!ミュージック」を教えて頂けますか?



松本:ごめんなさい=ほんとに音楽を聴く事が無くて。
元気出したいときは、ジム行って身体動かしますし、落ち込んだときは、友達と飲みに行きます。
音楽を聴く事が、ほんと一切無く、随分味気ないのですが・・・。
だからこそ音楽を作りたくなる、というのも、多分あるんだと思います!



---今後の音楽活動について、展望や夢など教えて頂けますか。


松本:海外進出、でしょうか。
頑張ります!



---これからも様々な場で松本さんの音楽を聴けることをとても楽しみにしております。
今回はどうもありがとうございました。







「0 canyon」松本淳一

1.0 Canyon
2.Seagull
3.Pathetic
4.ReRhythmico
5.At the End of the peninsula 'KARALITO'
6.Morning Juggling
7.Miracle key
8.Swingin' Colors
9.Star
10.A boy in the Summer
11.In the Shade of a Tree


レーベル : shiosai zizo
販売元 : アドニス・スクウェア
品番 : SHCZ-0108
価格 : 2,500円(税抜)


参加ミュージシャン
松本淳一 (Pf/Key/Toy/Programing.etc)
トリ音(テルミン on 3.5.8)
久保智美(オンドマルトノ on 1.3.5.8)
井上幸子(クラリネット、バスクラリネット on 5.6.8)
上畠善男(オーボエ on 10)
須山暢大カルテット(1.3.5.6.10)

「0 canyon」サイト
http://www.junichimatsumoto.com/zerocanyon/







松本淳一 プロフィール:
1994年インターナショナルエレクトーンコンクール第一位受賞を機にデビューし、日本はもとよりアジア諸国から招かれ各地ホールや音楽大学で活躍した後、2009年アイスランド芸術大学大学院作曲修士課程に留学、現代音楽を学ぶ傍ら地元のミュージシャンとliveを行う。
レイキャビクではヨハンヨハンソンやアパラットオルガンカルテット等とも共演、コンテンポラリーダンサーや地元の現代音楽家と交流を深め、2011年には世界的なクラシック音楽の登竜門であるエリザベート王妃国際音楽コンクール作曲部門でファイナリスト賞を獲得。
2011年の帰国後、テルミンとオンドマルトノとユニット[MATOKKU]を結成主宰し、ライブ活動を開始する。
一方、TVCM映画TVドラマJpop舞台音楽等も手がけ、2014年には是枝監督作品「そして父になる」で日本アカデミー賞音楽優秀賞を受賞。
11月にはハローキティ40周年記念作品として2D/3Dで公開された人形アニメーション映画「くるみ割り人形」の音楽を担当。
2015年SABU監督作品「天の茶助」テレビ「廃墟の休日」の音楽を担当するなど、その活躍は徐々に幅を広げている。
2016年アニメ「魔法使いの嫁 星まつひと」音楽担当。『魔法使いの嫁 星待つひと:前篇』8月13日(土)より全国劇場にて2週間限定イベント上映。


WORKS
MOVIE:『天の茶助』(2015年)『くるみ割り人形』(2014年)『そして父になる』(2013年)
DRAMA:テレビ東京『廃墟の休日』(2015年) 日本テレビ 24時間テレビドラマ『今日の日はさようなら』(2013年)
TVCM&VP:『レディースアデランス』『京都きもの友禅』『ユニー アピタ・ピアゴ』(2015年)『大正製薬 ゼナジンジャー』『ライオン 休足時間』『富士通エフサス』『P&G ソチ5輪フィギュア男子お母さん、ありがとう編』『武蔵野銀行』(2014年)『アメリカンホームダイレクト』『PANASONIC INDIA』『クーパービジョン』『ATSUGI』『SUBARU』『ONE PIECE GRAND STORY 電伝虫Discovery TV』(2013年)『貝印 ブレンディア』『三井不動産レジデンシャル』(2012年)
CD:安藤裕子『あなたが寝てる間に』(2015年) Track.1「森のくまさん」編曲担当/チームしゃちほこ『ひまつぶし』(2014年) Track.10「明け星」編曲担当
STAGE:miracle vell magic show『ようこそ、ユメミルユガミノ国へ。』(2015年) 音楽担当/俳優座『巨人伝説』(2014年) 音楽担当/ダンスカンパニーMOKK『ヴァニッシング・リム』(2014年) 音楽担当/冨士山アネット『八』(2012年) 音楽担当
OTHERs:ソニー&美ら海水族館『45th Sony Aquarium』(2013年) 音楽担当



松本淳一 Official Web Site
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