第五回 「バンドブームのこと」その1




The東南西北がデビューしたのは、1985年。
当時、バンドブームだったのかどうか、でも、いろんなタイプのバンドやユニットやグループがあったような気がします。

80年代半ばは、70年代のものが、特に古いものに見える時代でしたから、それまでの、長髪にベルボトムジーンズのロックのお兄さんみたいな人は、ほとんど、いなくなってたと思うし、ソウルフルなアフロヘアーも当時は、信じられないスタイルでした。
皆、独自の新しいスタイルを見つけようとしてたし、それまでにはなかった奇抜なかっこうをする人も増えていたと思います。

皆、ほかとは違うことをしようとしてたんだと思います。

僕らと同じ年の、ソニーのオーディションに出場していたのは、聖飢魔U、LOOK、種ともこさん。他にも、ジャーニーっぽいメロディアス系のバンド、メタル系のバンド、テクノ系バンド、ビリー・ジョエルっぽいピアノマンなどなど、バラエティーに富んでましたし、皆、とっても上手。楽器や機材もプロとかわらないようなものを使ってるように見えました。
オーディションに出場時の僕らは、加納順くんのギターが、本物のエピフォン、入船くんのシンセサイザーが、あのDX-7でしたから、それを思うと高校生なのにすごいわけですが、僕は、アリアプロUのリッケンバッカー325コピーモデル「ロックンローラー」、清水君は、グレコのカールフェフナーのバイオリンベースのコピーモデル。エフェクターといえば、加納君がフェイザーを一つ通してたぐらいかな、僕も清水君もアンプに直です。
ドラムセットは、会場にセッティングされているものを使用。パッと見、ビートルズみたいな楽器を持った高校生たち。衣装は、大池君の提案で、作業服の青いつなぎ。背中に、ラスタカラーのフェルトで「The Ton Nan Sha Pei」と各自自分で縫い付けました(入船くんだけは両面テープで貼り付けてて、うまいことやってました)。入船くんは、てっぺんの開いた南国風の麦藁帽、加納君は、通ってた学校の規則でスポーツ刈りでしたから、野球帽をかぶり丸めがねをかけてたのかな。このビジュアルもインパクトがあったようです。
演奏したのは、「星がっちゃうねジャマイカ」と「Jの後悔」(この2曲は新作「re-flight」にも収録。特に「Jの後悔」はオーディションのときに近いアレンジになっています)。
上手い下手は別として、当時、他には、あまり見ないタイプのバンドだったろうと思いますよ。

僕らは、その時、高校3年で、加納くんが高校1年。同世代のバンドが多くコピーしていたのは、モッズ、RCサクセション、キャロル。テクニック系の人たちは、カシオペアなどのフュージョンをやってたし、ラウドネスなどハードロックをやってるバンドもありました。アリス、長渕、チャゲ&飛鳥、さだまさし等、フォーク系をコピーしてる同級生もけっこういたと思います。ようするに、すでに洋楽より邦楽のコピーが主流だったという感じです。そこに僕らはビートルズで、すぐオリジナルを始めてました。同学年の女子に、パンクバンドがいまして、これはなかなかかっこよかった。やはりオリジナルをやってて、自主制作でレコードも作ってました。時々、対バンしてたそのバンドの女子から「正統派ね」と言われたことがあります。ビートルズは「正統派」だったんですね。なんといいますか、いわゆるリーゼントの不良も、当時、ちょっとぎりぎりな時代遅れの匂いがあって、そこに新鮮さはもうなかったでしょう。普通のかっこうしてるのに、内面になにか抱えてる感じ、というようなアニメなんかが、じょじょに流行ってたりして、「オタク」という言葉もこのころ出てきました。余談ですが、ほんとうに、そういうアニメが好きな男子から「オタク、どういうの好きなの?」とか話しかけられることがありましたからね。

The東南西北は、ソニーのオーディションに出る前後に、オリジナル曲を、だんだん増やしていました。デビュー曲「ため息のマイナーコード」やファーストアルバム「飛行少年」やセカンドアルバム「深呼吸」に収録されることになる曲も、すでにライブでやっていました。「内心、Thank You」「イタバリローカ」「レゲエな気分」「atmosphere」など。「内心、Thank You」のレコードになった詞は、そのころ僕が書いてた詞を元に、松本隆さんが新たに書いてくださいました。タイトルの「内心、Thank You」という言葉や、歌詞に出てくる「All I Can Say is Thank You」などは、元の僕の詞にあったものでしたから、松本さんから届いた詞をはじめて読んだとき、こんな風に広げられるんだ、と感動したものです。

ソニー・オーディションは、前にも書きましたように、オリジナル曲であることが条件。聖飢魔UもLOOKも種さんも、他の人たちも、すごい曲を歌ってました。でも、どういうわけか、僕は僕たちの「星がっちゃうねジャマイカ」や「Jの後悔」が、やっぱり一番良いような、自信過剰なんですが、そんな気がしていました。


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