■常盤響の『レコ部やってます』




 こんにちわ常盤です。数年前から友達が家に遊びに来てレコードを聞きながら話すという行為をレコード部、略してレコ部と呼ぶようになりました。メンバーは不定。とにかく、誰かが僕の散らかったレコード部屋(部室)にやってきて、レコードを聞き出せばレコ部の始まりです。部活と行っても、特に何かを研究したりするわけではないのですが、何人かが集まってレコードを聞いていれば、その時の皆の気分というか、ブームというか、なんとなくみんながハマるジャンルやアーティストなんかが出てきます。この連載では、そんなレコ部の出張版として、ベストヒッツ・イン・部室みたいなことをやってみようと思います。どうぞ、入部は歓迎でございます。


 第一回めはフィリピンのシンガーソングライターというか、ポップ・マエストロと言うべき、ホセ・マリ・チャンを紹介します。彼を知ったのは本当に偶然で、数年前たまたま知ったフィリピンのディーラーのリストから何枚か適当に買ったレコードの中に入っていたのが最初でした。それ以前にフィリピンのアーティストは70年代のコンピレーションなどを友人が持っていたり、AOR的なものを何枚か都内のレコード店で見つけて持っていたりする程度で、実際詳しくなんかなく、その時もなにか面白いものでもあれば…くらいの軽い気持ちでのオーダーでした。その時買ったのは彼の2ndアルバム「Can We Just Stop And Talk A While」でした。フィリピンには珍しい横分けの中華系の青年がジャケットに写った1973年発表のこのアルバムに針を落とした時の衝撃は忘れられません。アメリカのソフトロックと和モノのソフトロックを足した様な、今までアジアの音楽を聴いて感じた様なエキゾチズムは無く、限りなく洗練されたストライクな世界が広がっていたのです。このアルバムからはなんといっても「Big, Beautiful Country」という曲が素晴らしいです。この曲はYoutubeで聞けると思うので、検索してみて下さい(映像は適当なものでご愛嬌ですが)。他にもこのアルバムには先の曲のボサアレンジのインスト「BBC In Bossa Nova」や、コマツ重機やニューダイアルソープなどのCM曲をメドレーにした「Medley Of Jingles」も収められていて、すっかりホセ・マリ・チャンに興味津々になってしまったのです。

 色々調べてみると、若い頃はフィリピンのジム・ウェッブと言われてみたり、その後国民的人気のバラードを量産して、ラブバラードの帝王と呼ばれたりしてる他、砂糖工場の経営などでビジネスマンとしても活躍しているようです。1945年にフィリピン中部のイロイロ市に産まれの彼は67年にデビュー。73年には、ヤマハ主催の第4回世界歌謡祭にノミネートされて来日しています。しかし、惜しくも予選敗退でした(グランプリは小坂明子の「あなた」)。しかし、彼はフィリピン国内ではシンガーとして、ソングライターとして引っ張りだこで、自身のアルバムの他に映画音楽や、他のシンガーへの曲提供、CMのジングルの制作と大活躍し、今でもフィリピンで最も有名なミュージシャンのひとりです。フィリピンの人は、本当に甘いラブバラードが好きで、ホセ・マリ・チャンもまた、80年代以降はデジタルシンセのキラキラした音色をバックにバラードを歌うようになってしまいますが、70年代に出たどのアルバムもソフトロックファンにはこの上ないものになっています。また、彼のキャリアを語る上で欠かせないのが、CMのジングルなのですが、1997年に発売された「Strictly Commercial The Jingles Collection」というCDには74曲ものジングルが収められていて、ソフロ好きなら悶死するような曲が目白押しです。

 2007年の秋、ホセ・マリ・チャンは久々に来日してコンサートを行いました。小岩のカトリック教会で行われたコンサートでは、カラオケライブではありましたが、オープニングからフィリピン・エアラインのテーマ曲「Love At 30000 Feat」で始まり衰えない美声を聞かせてくれました。ちなみに「Love At 30000 Feat」もyoutubeで聞くことができます。ホセ・マリ・チャンのレコードはもっと広くソフロ好きに聞かれるべきなのですが、実際にフィリピン国内で発売されているCDですら、日本国内では手に入りにくいのが現状です。レコ部でソフロ時期の彼のベストなんかが発売できたらいいんですけどね。

 そんなこんなで、1回目からフィリピンのアーティストの紹介でしたが、今、レコ部ではアジアの音楽が流行っています。アジアの音楽というと民族音楽を想像してしまいがちですが、それは日本と同じように欧米の音楽に影響を受けたポップ・ミュージックが沢山眠っているのです。今後もレコ部内ヒットを紹介しますので、お付き合い下さればと思います。それでは、また次号!


常盤響(トキワヒビキ)プロフィール:

1966年東京生まれ。1984年スペースポンチ結成(現在も活動中)。90年代初頭にはムードマン、高井康生、宮川弾とウィードベース結成。95年頃、砂原良徳とミッドナイトボウラーズを結成。00年頃、ミズモトアキラとDJユニットTMVGを結成。ポリスターよりMIXCDをリリース。他、トラットリア(コーネリアス他)、テイトウワ、YMO、ピチカート・ファイヴなどのリミックス、カットアップを手がける。グラフィックデザイナーの傍ら1998年頃から装幀、CDジャケット等を中心に写真を撮り始める。写真集として『Rolexibition』(リリー・フランキー氏との共著)『Sloppy Girls』(新潮社)『Freedom of Choice』(河出書房新社)『GirlFriends』『Girl U Want』(小学館)、近著に小西康陽氏との共著「いつもレコードのことばかり考えている人へ.」(アスキー)


WWW OF HIBIKI TOKIWA
http://www.hibikitokiwa.com/

Twitter
https://twitter.com/HIBIKITOKIWA

常盤響のニューエロス
http://ch.nicovideo.jp/hibiki-tokiwa

Blog
http://ameblo.jp/hibikitokiwa/

レコ部
https://www.facebook.com/pages/%E3%83%AC%E3%82%B3%E9%83%A8/207843492608942





(C)2011-2014 Cheer Up! Project All rights reserved.