ジャズギタリストの井上智さんが9枚目のリーダーアルバム『9 Songs / ナインソングス』をリリース。今回は全て井上さんのオリジナル曲で、音楽の楽しさや、井上さんのお人柄がにじみ出た素晴らしいアルバムと大好評です。
長年ニューヨークで活躍されていた井上さんは、2010年に帰国して日本を拠点に移し10周年。
今回は当マガジン初のオンラインインタビューで、井上さんにこのアルバムに詰まったたっぷりのエピソードを中心にお伺いしました。
また、アルバム参加メンバーや井上さんゆかりの方々からのコメントもいただきました。
ぜひCDを楽しみながらお読み頂きたい濃い内容となっております。(2021年1月)

井上智 インタビュー コメント


【井上智 インタビュー】



---今回、ご自身のオリジナル曲のみのアルバムにした経緯を教えていただけますか。

井上:『9 Songs』は9枚目のリーダーアルバムになりますが、6〜8枚目のアルバムでは自分のオリジナル曲を発表する機会がなかったのです。 例えば6枚目の『Lullaby Of Birdland』(Manhattan Five名義)では、ジョージ・シアリングの作品ばかり演奏するアルバムで、その次のアルバムは恩師ジム・ホールのトリビュートアルバム(『Plays Jim Hall』)でした。

8枚目は北川潔さん(bass)とスタンダードを演奏したり(『Second Round』)・・・ということで、オリジナルがたまっていたので、この辺でそろそろ発表しておきたいと思ったのと、現在やっているカルテットがまとまってきていい感じになったので音に残しておきたいということですね。
それにもう一つ、アメリカから帰国して10年たったので、10周年記念という意味合いも少しあります。

---レコーディングは2020年の8月。暑い時期なのにマスクも必須で大変だったのではないでしょうか。録音はどのようにされたのですか?

井上:千葉県にあるレコード会社のスタジオでレコーディングしました。
普段やっているライブと同じ感じで、全員同じスタジオに集まり、「せーの!」でカウントして録音しました。
一人ひとりブースに入って仕切られていたので、その間はマスクしないで済んだのですが、みんなでエンジニアのいる部屋に入りサウンドチェックする時だけマスクをつけました。マスクをつけたり外したり、でしたね。

---レコーディング時に印象的だったことはありますか?

井上:音の出せない状況が続いていて、ツアーもキャンセル。ミュージシャンにとってはダウンな状況で、あまりいい話はなかったので、みんなで会って音を出した時はいつもより喜びを感じましたね。とても貴重な体験でした。
そして私の音楽に協力してくれる仲間の存在が本当にありがたかったです。

---今回のバンドメンバーについて、井上さんからご紹介をお願いいたします。

井上:武本和大くんは私の元生徒といいますか・・・私はいま国立音大で教えてるんですけど、そこで彼はピアノを小曽根真さんに習ったりして優秀な生徒だったんですよね。私はアンサンブルを教えていたんですが、その時に彼の素晴らしい才能に気が付いて注目はしていたんです。
で、彼と演奏し出して一年ぐらい経ちますかね。息子みたいな世代で、平均年齢を下げる役目もしてくれてます(笑)。
性格はとっても明るくて音楽の向上心が半端ないです。

増原巖さんとは元々NYで会ったんですけど、何十年という付き合いです。非常に真面目な方で、自分でバンドもやっておられて、音楽を総合的にとらえるタイプ。全体を聴くベーシスト。
こだわりの男でもありまして、意外な側面としてはK-POPが大好きでK-POPの話をし出すと止まらないですよ。
もちろん演奏も素晴らしいジャズベーシスト。音色がウッディというんですか、木の音色がそのまま出てくるような。

高橋信之介くんは我が道を行くタイプ。NYで僕のバンドでよく演ってもらってたんです。彼のドラムは、とってもスウィングするんですよ。ノるというか、のせられるというか。素晴らしいドラミングです。そして音楽を総合的に捉えることのできるミュージシャンです。才能も凄いですが、普段練習しまくる"努力の人"でもあります。

---今回管楽器のゲストがお二人。ルイス・バジェさん(trumpet)、多田誠司さん(alto sax, flute)ですね。
お二人とのお付き合いは長いのですか?


井上:ルイス・バジェさんとは、このレコーディングで初めて会ったんですよ。
というのは、このアルバム収録の「Nonoichi Swing」、石川県野々市のジャズイベントに作った曲なのですが、このイベントはいつもアメリカからスターミュージシャンをゲストに呼んでいるんです。
2020年はこのような状況で海外から呼べない。どうしようか?という時に、アルバムレコーディングの2ヶ月ぐらい前かな?イベントの主催者から「キューバ人の素晴らしいミュージシャンが日本に住んでるからイベントに呼んでくれないか?」と言われたんです。そういうことでコンタクトをとって、じゃあレコーディングもお願いしよう!いうことになりました。

BIG APPLE IN NONOICHI
https://bigapple.nono1.jp/

それでレコーディングでお会いしたら物凄いプレイヤーだったという。
めちゃくちゃ明るい、ラテンのイメージそのままの方で明るいパワーが凄かったですね。もちろんトランペットのプレイもとんでもなく凄い。ビッグバンドで一番高い音を吹くのをリードトランペットというのですが、花形の役割も出来るし、コンボでのしっとりした演奏も素晴らしい。
彼に来てもらったので、2曲目のサルサの「Paz y Amor Siempre」もバッチリ、彼が吹いただけでスタジオが中南米になるような。

---多田誠司さんについてはいかがですか?

井上:多田さんとは帰国後からだから、お付き合いは6〜7年ぐらいでしょうか。多田さんも明るく楽しい方ですね。
自分のことをTaddyと呼んで、サックス、フルート、最近は歌うようにもなり、YouTubeでのレッスン配信とかも活発ですね。いろんな才能があふれる感じ。
音楽以外では、酒は飲むわ、ゴルフはするわ、荒川を走るわと、めちゃくちゃアクティブな方です。

---今回のアルバムは、バラエティに富んだ曲調、拍子もいろいろで最初から最後まで楽しく聴きました。ジャズは難しそうと思っている方でも楽しく聴けて、そして繰り返し聴きたくなるすごいアルバム。
井上さんの作曲法はどのようにされているのでしょうか?


井上:ギターを使って作曲しています。私の場合、ある曲を練習している時に他の曲を思いつくことが多いですね。
例えば4曲目の「Capoeira Song」。これは「All Of Me」という曲を練習しているうちに曲を思いつきました。
6曲目の「Monk The Things」は「All the Things You Are」というスタンダードナンバーを練習していたらアイディアが出てきて、「あっ、これを曲にできるかな?」と。
練習しているうちにアイディアが浮かんできて「それで作ってしまおう」ということが多いです。

---ドラムやピアノなど他のパートについても一緒に浮かんでくるのですか?

井上:そうですね、一緒に浮かんでくることもあるけれど、ライブで一緒に演奏しながらメンバーから来るフィードバックが大きいですね。
「この曲はこんな感じで」と大体の道筋を提示して、それをメンバーに調理してもらい、「いや、ここはこうしたほうがいいんじゃない?」とかリハーサルで意見交換しながら作ってゆく事も多いですね。

---曲のタイトルは後からつけるのでしょうか。

井上:曲のタイトルは後が多いですね。「Nonoichi Swing」は依頼があって作った曲なので、最初からタイトルはある程度決まっていましたが、あとはタイトルから作ることはほぼ無いです。


---ここからは1曲ずつお伺いしたいと思います。

1. Together With You
---個人的に一番好きな曲です。明るく心地良くて一気にアルバムの世界にひきこまれますよね。

井上:ありがとうございます。これは一番最近できた曲です。キーはD Majorで、ギターの明るい響きを表現したいなと思いました。
これも実は元曲がありまして(笑)、マイナーキーの「Alone Together」という曲です。
それをメジャーでやったらどんな感じになるかな?と演奏してみたんですね。
マイナーの曲をメジャーでやる。こういった遊びが好きでして、普段から結構やってるんです。
例えば、友達に対して「Happy Birthday」をわざとマイナーで演奏してみたりとか(笑)。「なんやそれ!」みたいな。

---楽しそうですね!

井上:そういうジョークみたいなね。
それで、マイナーの「Alone Together」をメジャーでいじくり回していたら明るい響きがパーン!ときたんですね。で、メロディーが降りてきて。
明るいいい曲を書きたいなあという思いもありました。
タイトルも「Alone Together」のTogetherを使って(笑)。
そういうこともあったし、コロナで人と会えない時に家族だったり、飼ってる猫だったり、"誰かと一緒に"。そういう意味も含ませたいと思いました。

---あったかい気持ちになれるのは、そういう井上さんの思いがこもっているからなんですね。

2. Paz y Amor Siempre
---井上さん愛用のギター製作者、NYの"名工"エイブ・リベラさんに捧ぐ曲とのこと。
井上さんは、主にエイブ・リベラさんが作ったギターをお使いなのですね。





井上:これは彼が手作りで26年ぐらい前に作ってくれたものです。

---エイブさんの作ったギターは何本お持ちなのですか?

井上:3本です。メインで使っているのは、この26年前のギターです。

---エイブさんはつい最近逝去されてしまったそうですね・・・。

井上:そうなんです。コロナの合併症でね。元々健康ではなかったんですけど、結構な年齢でしたし・・・。

---軽快で心地良い曲調にエイブさんのお人柄がしのばれます。どんな方だったんでしょうか。

井上:この人は絵に描いたような頑固職人。一匹狼。だから弟子をとっても上手くいかないし、アメリカに住んでるけどアメリカのことが嫌いなプエルトリコ人。
祖国プエルトリコのことを誇りに思ってて、ジャズやサルサなどの音楽が大好きで、本人はヴィブラフォンを演奏したりもしてました。

ギターの職人というと、いいギターを作って演奏家に弾いてもらって・・・そういうことが多いんですけど、彼の場合は音楽的なことに口を出してくるんですよ。
私が自分のCDを渡すと、「お前、もっとこうしたほうええんちゃうか〜!」と結構入り込んでくる感じで(苦笑)。
軽い付き合いが出来ないというかね。ガッツリ組まないと。彼とはそういう付き合いでしたね。

3. Bop On The Map
---ギターとピアノのユニゾンが本当に心地良くて。どこか懐かしい雰囲気も感じました。1950〜60年代ぐらいの空気というのでしょうか・・・。

井上:ありがとうございます。これはジョージ・シアリングの「コンセプション」という曲のイメージというか。うまいこといったかな、と思ってます。



学生時代にNYのニュースクールという大学に行ってまして、ジャズ科で師匠のジム・ホールに習ってました。作曲クラスの宿題で作った4小節を完成しないまま放置してて・・・。それを今回完成させたんです。
やっと完成できて喜んでおります(笑)。

4. Capoeira Song
---多田さんのフルートがきれいで軽快ですね。

井上:大好きです!気に入っております。フルートに合った曲になったなと喜んでおります。作った時はフルートのことまで考えてなかったですが、今回多田さんが参加することが決まったのでフルートをぜひお願いしようと思って。
多田さんのやってる「We three kings!」というバンドでよく一緒に演奏してるんですよ。なので彼がフルートも素晴らしいことを知ってたのです。
「All Of Me」をマイナーにして遊んでたら出来上がった曲です。

5. Imaginary Japanese Folk Song
---先日逝去された、井上さんのお父様のご提案で日本の民謡をイメージした曲を作られたそうですね。そのあたりについて伺えますか?

井上:親父は民謡が大好きで、民謡のサークルに入って三味線を弾きながら歌っていました。ボランティアでお年寄りの施設などをグループで訪問して、演奏したり歌ったり、というようなことをまめにやっていました。
神戸の実家に帰るたびに、以前から「民謡を取り上げなさい」みたいなことをいつも言ってたんですね。
それでちょっと民謡を逆に自分で作ってみようかなと思って。これは元曲はないです。
「こんな民謡あるとちゃうんかな〜?」みたいなイメージです(笑)。

---井上さんにとって、お父様のお好きな音楽の影響はありましたか?

井上:親父の好きな民謡は横でよく聴いてましたね。
この曲に直接表れてるかどうかはよく分からないですけども、結局なぜ自分がいまギターをやってるかというと、家にギターがあったから。子供の頃、親父が弾いてた生ギターがぽろっと置いてあったんですね。そういう意味で、あれが無かったらギタリストにはなってなかったかな?と。

親父は古賀政男が好きでね。"古賀メロディー"ですね。それに洋楽も好きで、「ウェストサイド物語」とか子供の頃よく聴いてましたから、そういう影響は受けてるんだろうなと思います。

---子供の頃好きになったり、よく聴いていた曲は後々までけっこう大きいのではないかと思いますが・・

井上:大きいですね。親父は音楽が好きで、家にステレオがあって音質にも凝っていて、いい音を聴かせてくれましたね。

6. Monk The Things
---ジャズギターの魅力を堪能できる曲で、ドラムソロもかっこいい!
先ほど「All the Things You Are」を練習していた時にできた曲と伺いました。


井上:そうですね。「All the Things You Are」が元曲です。ピアノのセロニアス・モンクをイメージしています。とにかく彼の作曲というのはリズミカルでブルージーで大胆な感じがするんですけど、そういうのを自分なりに引き継ぎたいなあと思いまして。かなり昔に作った曲ですね。
この曲をライブで演奏する度に高橋信之介くんのドラムがとてもかっこいいので、今回も彼をフィーチャーしたくて。

---メンバーの皆さんの見せ場がある曲ですし、ライブでもかなり盛り上がるでしょうね。

井上:そうですね。盛り上がりますね!信之介くんの演奏はスティックも勿論素晴らしいんですけど、この曲では彼のブラッシュワークを堪能して頂ければと思います。

7. 55
---5拍子のブルースチューン、5拍子だから「55」なのですか?

井上:はい。「55」は実は、松井秀喜の背番号なんですよ。彼がヤンキースに来ていきなりホームランをぶちかました事に衝撃を受けました。「凄いのが来たな!」と、その頃NYに私もいましたし、その喜びもひとしおで曲にしたんです(笑)。
「背番号が55なら、5拍子しかないな!」と思って。

---そういういきさつだったんですね!

8. Going Home Whistle
---ピーター・バーンスタインさんとのデュオ・アルバム『ギターズ・アローン』に収録されていた曲だそうですね。

井上:この曲はバンドでもよく演奏してて。バンドで演奏したらどうとれるかな?と思いまして、入れてみました。

---美しいワルツ、歌うように奏でる井上さんのギター。
今回のアルバムは拍子も様々ですよね。


井上:私は今、国立音大で「ジャズスタイル分析」というジャズのスタイルを教えるというクラスもやっています。
ジャズとひとことで言っても色々ありますよね。ビバップ、ハードバップ、フリージャズ、ニューオリンズ、フュージョン、ラテン・・・
そういうジャズの多様なスタイルを自分のジャズギターで色んな形を出したいなとは思ってましたから、バラエティを持たせるために、どんな曲を録音するか決める段階で「3拍子はこの曲があるな、Bossa Novaはこれがあるな、これは5拍子だな」、そういう風に曲がだぶらないようにしたら、結構いろんな曲が集まったわけです。

9. Nonoichi Swing
---先ほどもお話に出た、石川県野々市(ののいち)市のジャズイベントの曲で、2011年に作曲なさったそうですね。

井上:野々市というのは石川県金沢市の隣にある人口5万人ぐらいの町だったのですが、2011年に町から市に昇格するというイベントがあったんです。
それを記念して、その年の野々市のジャズイベントで地元のビッグバンドと一緒に演奏するということになり、作曲しました。
元々はビッグバンドの為の曲でしたが今回、6人用に編曲し直しました。

---このジャズイベントで、井上さんはなんと26年にもわたり音楽監督をつとめていらっしゃるそうですが、そのご縁のきっかけはどのようなことだったのですか?

井上:日本には地方地方で社会人ビッグバンドが結構あります。普段は皆さんお仕事してるけど土日に集まって練習するようなバンドですね。年に一回、社会人ビッグバンドのコンテストもあったりします。
私がNYのニュースクール大学で学んでいた1991年ぐらいかな。たまたま野々市のビッグバンド「ムーンライトJAZZオーケストラ」が、さきほどのコンテストで優勝したのです。
優勝するとカリフォルニアのモントレージャズフェスに招待される、という事があったんですね。
彼らがカリフォルニアで演奏して、帰りにNYに来て、私の通ってたニュースクールで公開クリニックというのをすることになったんです。
大学のジャズ科のディレクターから、「日本のバンドが来てるよ。君も観たら?」と言われて、客席で観てたんですよ。
その後懇親会のようなものがあり、まあ打ち上げですよね。その席でビッグバンドの人たちと話してご縁ができました。

彼らは毎年アメリカから自分たちの好きなミュージシャンを招びたいそうで、例えば"カウント・ベイシー・オーケストラで演奏していたこの人を招びたい!"とか、彼らの夢があって。私で出来ることなら協力させてもらいますよということで、コラボが始まったんです。
それからイベントがうまくいって、今や26年も続いて。

---井上さんはそのイベントに毎年関わっていらして、「ムーンライトJAZZオーケストラ」のメンバーの皆さんともずっと交流が続いているということでしょうか。

井上:そうですね。お付き合いは26年になります。当時のプロモーターは地元でジャズ喫茶をされていた方ですが、実はBIG APPLE IN NONOICHIの仕掛け人です。今でもお世話になっております。

---ひとことで26年といっても長いですよね。凄いです!






---国立音大では、「ジャズスタイル分析」の他にはどんなことを教えていらっしゃるのですか?

井上:4年生のアンサンブルとジャズギターの個人レッスンをしています。

---教えることの難しさについて、どのようにお感じですか?

井上:生徒を巻き込みながら、参加してもらいながらの授業を目指しているんです。一方通行にならないようにね。私の授業は楽器をもってきてもらって座学と演奏のミックスなんです。演奏はみんな楽しんでくれるんですけど、そこに座学の部分をいかにリンクさせるのか?がチャレンジですね。

---昨年は大学もオンライン授業が多くて大変だったのではないでしょうか。

井上:僕は慶応大学でも教えてるんですよ。これがまた変わった授業で、英語でジャズを教えるというクラスなんです。春は理論、秋からはアンサンブルをやるという内容です。

今まで僕はZOOMやGoogle Classroomなどリモートで教えるオンライン授業というのはやったことがなかった。それが、コロナ禍で、やらざるを得ず結果的に新しい世界も見ることができたのは面白かったですね。疲れた部分もありますけどね。

---生徒さんたちは在宅で、住んでいる環境も様々でしょうから、そのあたりも大変でしょうね。

井上:国立音大のほうでは、オンラインで座学と演奏のミックスをやりたくても、理論的な話はできても演奏のほうはできないわけですよね。さらに、どういう風に課題を与えるか?とか悩みました。
慶応大学のほうは生徒が16名いるんですが、コンピューターの画面に16人がバン!と出てきて、最初はびっくりしました。学生はそれぞれ部屋の環境が違う。楽器を演奏できない環境の生徒も多い。そういう人たちを相手にいかにジャズの授業をするか?また飽きないように積極的に参加してもらえるような工夫は?と悩みました。
これはこれで解決策があって。みんなにメトロノームを用意してもらい、リズムやメロディを声に出して歌ってもらったりしました。

---井上さんの師匠は、かのジム・ホールさんですが、ギタリスト以外のジャズメンでお好きなアーティストを教えて頂けますか?

井上:沢山いますよ。ビル・エバンス、マイルス・デイヴィス、チャーリー・パーカー、ジョン・コルトレーン・・・。
あ!ソニー・ロリンズも大好きです。デクスター・ゴードンも好きですし、嫌いな人のほうが少ないかもしれませんね。いわゆるジャズの巨人たちは全部好きですね。

---ジャズ以外のジャンルはいかがですか?

井上:僕は京都の大学に行ってた頃は実はジャズをやってなかったんですね。プログレをやってたんですよ。

---プログレですか!?

井上:イギリスのロックが好きで。高校生の頃、海外アーティストが日本に来るようになって。デヴィッド・ボウイの初来日やYESの初来日を聴きに行きましたよ。ジェスロ・タルとか、ロックが大好きだったんです。
たまに酔っぱらうと、その頃に好きだった曲を聴いてタイムマシーンに乗る、みたいなことをします。昔好きだった音楽を聴くとやっぱり昔に戻るんですよね。

---最近、当WEBマガジンでは「Cheer Up! MUSIC 2020」という特集を組みまして、2020年にどのような音楽を聴いていたか?寄り添ってくれた音楽はどんなものだったか?を多くの方に伺いました。井上さんはいかがですか?

井上:自分で自分を癒したという感じですかね。
演奏の機会が減って、でもアルバムは作ろうと思ってたので、この9曲の音楽について、ああでもない、こうでもないと考えながら弾いて。それをしているときというのは別世界に入るというか、不安を忘れますよね。何かを聴いて癒されたというよりは、自分でギターを弾いて楽しんで「こっちのメロディーのほうが面白いな」とか。
作曲やアルバム作りが自分を支えたなと思っています。

---その結晶が8月に録音されて、現在リスナーが聴いて癒されているということですね。
濃密な9曲。どれもいい曲。このアルバムは大好きです。ほんとに。


井上:嬉しいです。
ジャズもソロを長くとった演奏もありますけど、今回は自分自身の歌をプレゼンしたかったんです。
初めてジャズを聴く方にも楽しんでもらえるかな?というのは、ちょっと思ってます。

---アルバムジャケットがまた可愛いですよね。どなたの絵ですか?

井上:これはズバリうちの嫁さんの作品です。アマチュアですが絵が好きで。
僕はジャズライフ誌に毎月「スタンダード講座」という連載をしていた時期があったんですよ。その時に挿絵を彼女に描いてもらってましてね。それでジャケットも依頼したわけなんです。







作品提供:椿りとなさん


---人物の特徴をとらえていらっしゃいますね。
奥様にも支えられ、仲間と作ったあったかいアルバムなんですね。


井上:ちょっとはあると思いますね(笑)。

---今後の展望、夢、どんなアルバムを作りたいか?など教えて頂けますか?

井上:今回『9 Songs』を出してお披露目ツアーができてないので、落ち着いたらこの音楽を皆さんに聴いて頂くためにツアーをしたいなというのがあります。
それと、いつかソロギターアルバムを作りたいなと思っています。

---ソロギターアルバムの選曲はオリジナル曲で考えていらっしゃいますか?

井上:いや、スタンダードになるかと思いますね。
ソロは本当に難しいんですけどね。僕の師匠のジム・ホールも結構キャリアの長かった人なんですけど、ソロアルバムを出すのに60年ぐらいかかったんじゃないかな?
ジョー・パスはいっぱい出してますけどね。ジム・ホールはかなり後のほうに一枚出しましたから、そういうのもあって。
私もいい歳になってきたんで、そろそろ頑張ろうかと思っています。

---読者へのメッセージをお願いいたします。

井上:パンデミックがおさまることを期待しながらツアーをしてみたいです。
その時に皆様とお会いしたいと思っております。
楽しめる曲が入っているので、ぜひアルバムを聴いてみて下さい。

---本日は長いお時間、貴重なお話をどうもありがとうございました。




『9 Songs / ナインソングス』井上智

1. Together With You
2. Paz y Amor Siempre
3. Bop On The Map
4. Capoeira Song
5. Imaginary Japanese Folk Song
6. Monk The Things
7. 55
8. Going Home Whistle
9. Nonoichi Swing

井上智 / Satoshi Inoue (guitar /ギター)
武本和大 / Kazuhiro Takemoto (piano /ピアノ)
増原巖 / Iwao Masuhara (bass /ベース)
高橋信之介 / Shinnosuke Takahashi (drums /ドラムス)

Guest
ルイス・バジェ / Luis Valle (trumpet/トランペット)
多田誠司 / Seiji Tada (alto sax, flute /アルトサックス、フルート)

発売日:2020年11月18日
規格品番:GWNJ2022
レーベル:What's New Records
価格:3,000円(税込)




【内容紹介】
ジャズの本場N.Y.で21年間にもわたって最前線で活躍し、2010年に帰国してからも、日本のジャズ・ギター界を牽引し続けている井上 智。 本作はその井上の通算9作目。井上智帰国10周年記念のオリジナル作品集。
井上は1989年に渡米し、N.Y.を拠点に数多くの超一流ジャズ・ミュージシャンと共演を重ねて頭角を現していく。1996年に『プレイズ・サトシ』でアルバム・デビューを果たすと、6枚のアルバムを世に送り込んで、2010年4月にN.Y.生活に区切りをつけて帰国。2014年には、N.Y.時代にことの外の寵愛を受けた恩師ジム・ホール(2013年12月に他界)へのトリビュート作『プレイズ・ジム・ホール』をリリースして話題をまいた。 その一方で、後進の育成にも力を注いでおり、N.Y.時代は1994年から名門ニュー・スクールで14年間にわたって講師を務め、現在は、慶應大学GICプログラム、それに国立音楽大学ジャズ専修で教鞭を執っている。
ニューアルバム、『9 ソングス』は、今年が、井上が帰国して10年ということで、節目であるこの年に自身のレギュラーカルテットでぜひ記録を残したい! との強い思いによって本作は生まれた。また井上のオリジナル全作品で占められた意欲作である。



◆プロフィール
井上 智(いのうえさとし)ギタリスト/コンポーザー
1989年、NYに渡りジム・ホールに学ぶ。21年間、NYのジャズシーンで活躍、高い音楽性と演奏力が評価される。1994年から16年間、母校ニュースクール大学ジャズ科で講師を務める。ジュニア・マンス、ロン・カーター、バリー・ハリス、ベニー・グリーン等多くのトップ・ミュージシャンとのツアーを経験。2010年に帰国後、東京を拠点に国内外で活動中。
また、慶應大学と国立音大でジャズクラスを持っている。リーダーアルバムは最新作「9 Songs」を含む9枚。

「井上 智は 鋭い想像力で音楽を創る優秀なジャズギタリストだ。」ジム・ホール


井上智 Official Website
http://www.satoshiinoue.com
Twitter
https://twitter.com/satoshi_inoue_
Satoshi Inoue Blog
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『Second Round』インタビュー(2016年)
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