心を落ち着かせたい。心地良さを味わいたい。この一年は特にそういう音楽が求められてきたのではないでしょうか。このアルバムには、まさに今じっくり味わいたい音楽が詰まっています。
Primitive Art Orchestraをはじめとして、様々な場で活躍中のピアニスト・木村イオリさん、ベーシストの森田晃平さんがデュオを組んで初のアルバム『BLESSINGS -IN YATSUGATAKE KOGEN ONGAKUDO』。ジャケットの写真は今回のレコーディング場所、八ヶ岳高原音楽堂。美しい場所でお二人はどのようにこのアルバムを作り上げていったのか?今回は森田晃平さんに詳しくお伺いしました。(2021年1月)

---森田さんと木村イオリさんは、Primitive Art Orchestraとしても共に活動されています。
そんななか、デュオを組むことになったきっかけや経緯について教えて頂けますか?


森田:4年ほど前からイオリさんとのデュオは数回行ってきました。
その中で2人でも景色の浮かぶような音楽を作れるような気がしたので今回のアルバムの制作をしてみる事にしました。

---森田さんからみた木村イオリさんのお人柄についてはいかがですか?

森田:イオリさんはどちらかと言うと朴訥な人柄ですが、お酒を飲むとそれが一気に解放されて朗らかになったりする部分は自分にも似ている気がします。
ピアニストとしてはすごく色彩感覚が豊かな奏者だと思います。
沢山のアイデアとインスピレーションを貰っています。

---今回、デュオの初アルバムのレコーディングに八ヶ岳高原音楽堂というホールを選ばれた理由を伺えますか。

森田:元々は北欧でのレコーディングを企画していたのですが、このコロナ禍の中でどうしても海外渡航が難しくなってしまい、、国内でホールの周りの景色が良くて想像力を掻き立てられる環境が無いかと考えた時に八ヶ岳高原音楽堂の事を思い出してディレクターに提案しました。

---レコーディンクには何日ぐらいかかりましたか?
八ヶ岳高原音楽堂はどんな場所だったのでしょう?アルバムジャケットの写真がとても美しいですね。


森田:レコーディングは約2日間で終了しました。ホール録音という事でやり直しの効かない環境だったのですが、とてもスムーズに録音を終えることが出来ました。

八ヶ岳高原音楽堂はガラス張りのホールなので、そこから雄大な自然を見ながら望みながらの演奏は格別でした。
風が木々を揺らす音や、鳥の囀りも全てそのままパッケージされているので耳を澄まして聞いていただければ嬉しいです。ホールのへの道すがら遭遇した鹿の群れにもMVに出演して頂いています。



---作曲は森田さん、木村さんそれぞれでされていて、1曲だけ「The Duet」で共作されています。共作の方法はどのようにされたのでしょう。
また、それぞれが作曲した曲について、アレンジについてはどのようにされましたか?


森田:「The Duet」を共作した時は我が家のスタジオでプリプロダクションを行っていた時にふと、二人でゼロから曲を作ってみたくなって前半のコントラバス部分から鼻歌で作り始めました。
中間部からはそれに合わせてイオリさんがピアノを弾いてそれぞれの生み出した旋律にアイデアを出し合いながらハーモニーを付けていった感じです。

基本的にはそれぞれが作曲した曲を楽譜とデモ音源でやり取りして後は実際に演奏しながら煮詰めていくのが自分たちの作り方です。
が、即興演奏にも魅力を感じているのでその余白は残すようにしています。

---森田さんの作曲方法について教えて頂けますか?

森田:曲を作るのは早い方だと思います。「Ever Green Forest」という曲はイオリさんがプリプロに遅れた時に何となくピアノを触っていたら30分で完成しました。
メロディーを閃いた時に頭に浮かんだ景色を追いかけて曲を作りながらも一つの映画をみているような感覚で曲を作っています。

---アルバムタイトル『BLESSINGS』に込めた想いについて伺えますか?

森田:聞いた人の頭の中にその人の一番好きな景色が浮かぶ事、聞いた後に良い気分になって貰えたら嬉しいなぁと思い制作を進めていました。

---個人的に特に好きなのは「日本組曲」です。映画音楽のように感じました。日本的なのに急にJazzyになる箇所もあったりして、それがまた自然で素敵なんですよね。また、桜神楽の終わりから淡雪にかけてベースが動物の声のような不思議な音を出している箇所がとても印象的でした。

森田:長年バンド名に「orchestra」を冠して活動して来たので、組曲にはいつか挑戦したいと思っておりました。景色が浮かぶ音楽は自身の音楽表現のテーマなのでそれが伝わって嬉しいです。
ここ数年海外の方達にも自分達の音楽を聴いてもらえることが増えて来たので、その人達が日本の景色を想像してくれたら良いなぁとも思いました。
なので日本的な旋律を少し意識した所もあります。
桜神楽の終わりから淡雪にかけてのベースの音は弓で指板上の高音部を擦って出しています。

---希望を感じる「Blessing from the wind」には、どこか懐かしさを覚え、とても癒されました。

森田:この曲はアルバム制作の一番最後にできた曲です。
明け方に友人宅でピアノを触らせてもらった時に冒頭のメロディーを閃いて、それから帰って朝のうちに完成した自分の作品の中でも明るい音像の曲です。
牧歌的なメロディーをイオリさんが素敵に奏でてくれたので、より風景描写が豊かになりました。

---「Dew Drops」をはじめとして、コントラバスの歌心が光っていて、コントラバスという楽器の魅力や表現力の幅広さに興味を持ちました。

森田:コントラバスとはもう15年以上の付き合いになりますが、まだまだこの楽器の可能性は未知数だと感じています。
これからも研鑽を積んでこの楽器の魅力を伝えていけるような奏者になりたいと思っています。

---うららかな日に、森の木陰でこのアルバムをゆったり聴いたら最高でしょうね。「Day Dream」は特に外で聴きたくなります。

森田:ありがとうございます。うたた寝しているような気持ちで聞いてくれたら嬉しいです。

---アルバムを通して聴いてみて、朝から夜までを表現しているのかな?と感じましたがいかがですか。

森田:特に時系列は追っていないのですが、作っていて頭に浮かぶ景色が朝だったり夕方だったり、夜だったりするので自然とそういう流れにはなっているかもしれません。
言われて初めて気が付きました!

---こんな時期だからこそ、このアルバムを聴いてリスナーはホッとしたり元気になったりすると思います。多くの方に届いてほしいですよね。

森田:僕たちの音楽を聴いて帰れない故郷を思い出したり、少しでも良い気分になって貰えたら嬉しいです。

---今後お2人のデュオで挑戦してみたいことやご予定を教えて頂けますか?

森田:2021年に様々な場所での演奏を企画しています。今はそれが無事に開催される事を願っています。
いつか八ヶ岳高原音楽堂でも演奏したいですね。

---2020年は本当に大変な年になってしまいました。振り返ってみて思うことを教えて頂けますか?

森田:芸術の儚さと尊さを思い知らされる一年でした。その中でも希望を失わず前向きに音楽と向き合えたので改めて自分には音楽が必要だと、音楽が好きだと再認識しました。
いろいろな事を考える時間もあったので悪い事ばかりでは無かったと思います。このアルバムも無事リリースを迎えられてホッとしています。

---ステイホーム中はどんなことをされていたのですか?楽しみなど見つけられましたか?

森田:普段の暮らしも家で作曲をしたり編曲の仕事をしたり篭り気味ではあるので実は特にあまり変化はありませんでした。
家のスタジオの環境を見直したり、機材を買い足したりして作業環境を整えるのが楽しかったです。
インテリアの本なんかもよく読みました。

---森田さんご自身の今後の夢や展望をお願い致します。

森田:早く皆様の前に立って自分の好きな音楽を表現したいと思っています。

---どうもありがとうございました。ライブで森田さんの音楽を直接聴ける日を楽しみにしております。




『BLESSINGS -IN YATSUGATAKE KOGEN ONGAKUDO』木村イオリ&森田晃平デュオ
1. Voice of the Trees
2. Blessing from the wind
3. Spring Rain
4. Dew Drops
5. Gentle Living
6. Reminiscence
7. Highland
8. Ever green forest
9. Day dream〜Remember you〜
10. 日本組曲「春」I.桜神楽-Kagura for Sakura-
11. 日本組曲「春」II.淡雪-Love and distance-
12. 日本組曲「春」III.落日-One's dusk-
13. The Duet
14. Retro Moon

発売日:2020年10月21日
規格品番:PWT79
レーベル:Playwright

All songs composed by 木村イオリ(M1,3,4,6,7,13,14)、森田晃平(M2,5,8,9,10,11,12,13)
Recording : 2020年初旬 八ヶ岳高原音楽堂
レコーディングエンジニア:岡本司(BAGUS Recording Studio)
マスタリング:Zino Mikorey





【作品情報】
稀代のメロディーメーカーであるピアニスト 木村イオリと、情感深く多彩な音楽性で魅せるベーシスト 森田晃平。10年来の付き合いのある二人が初めて1対1で向き合い、デュオ作を作り上げた。普段の活動では見せられない面やバンドではできなかった音作り、共通して好きなポストクラシカルの要素を取り込んで、各々の音楽性の新たな一面を引き出した。素朴でナチュラルなサウンドを追求し、自然な響きが豊かな八ヶ岳高原音楽堂というホールで、一人のピアニストと一人のベーシストが奏でる音のぬくもりを余すところなく収録した今作。木々の間を吹き抜ける心地よい風、木漏れ日のあたたかい色、降り注ぐ雨と生命力に満ちた大地、自然の恵み溢れる情景が目に浮かぶ楽曲の数々。冒頭を飾る(1)Voice of the Treesの瑞々しいメロディーが二人の描く物語に聴くものを誘い、タイトル曲(2)Blessing from the windは繰り返すフレーズが波のように心に迫ってくる。(13)The Duetは0からのセッションで交互に作っていったという、楽器同士の会話を感じるアンビエント。互いに挑戦してみたかったという組曲、日本組曲 春(10)(11)(12)は24分を超える大作で、他国のミュージシャンでは作り得ない日本的な美、和の趣が節々から感じられる。彼等の音楽をより色彩豊かにしたのが、マスタリングを担当したZino Mikorey。Nils Frahm、Thom Yorke、Olafur Arnalds等のマスタリングも手掛ける彼の作る音の質感が気に入っているという森田晃平が直々にプレゼンし、今作のマスタリングに至った。
聴く人それぞれの生活に溶け込み、どんなシーンでも聴ける。耳に残るフレーズの煌めくような美しさに、ふと涙してしまう。音が色づく瞬間、心の琴線に触れる。多くのひとの日常に穏やかなこの作品が届くように。



木村イオリ (pf, bohemianvoodoo / PRIMITIVE ART ORCHESTRA)
ジャズを中心に、様々なジャンルで活躍するピアニスト・キーボーディスト、作編曲家。青森市出身。2008年、ジャズバンド "bohemianvoodoo" を結成する。代表曲 "Adria Blue" の Music Video は YouTubeで400万回以上の再生を記録。
Blue Note Tokyoでのワンマンライブがチケット Sold Out となる他、東京JAZZ 2015, 2019 出演、Nissan Presents Jazz Japan Award 2017 受賞、singapore international festival of arts 2018 出演。同バンドの他、ピアノ・トリオ "PRIMITIVE ART ORCHESTRA”や、ソロ・ピアノによる全国ツアー、DJやダンサーとのコラボレーションなど多方面での活動を行い、その情熱的な演奏と、メロディアスな中に情緒を感じさせる曲作りで、国内外から注目を集めている。

IORI KIMURA OFFICIAL SITE
http://www.iorikimura.com
bohemianvoodoo Official Website
http://bohemianvoodoo.jp/
PRIMITIVE ART ORCHESTRA Official Website
http://www.primitiveartorchestra.com/
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森田晃平(ba, PRIMITIVE ART ORCHESTRA)
鹿児島県出身の情景音楽家。16才よりコントラバス、エレキベースを始める。2010年に活動の拠点を東京に移しベーシストとしてVAMPS、いきものがかり、little green monster、熊木杏里等多数のアーティストのライブ、レコーディングに参加。2012年から活動しているPRIMITIVE ART ORCHESTRAでは3枚のオリジナルアルバムを発売。作編曲家の活動も行なっており、2020年には自身の2nd ALBUM 「Euphonical Furnitures.2」を発表。温かで朴訥としたベースの音色と情景の浮かぶノスタルジックな旋律、情緒豊かでロマンチックなアレンジワークに重きを置いて活動中。

森田晃平 note
https://note.com/moritakouhei
PRIMITIVE ART ORCHESTRA Official Website
http://www.primitiveartorchestra.com/
Twitter
https://twitter.com/fairybassmorita



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